この記事は2010年3月に掲載されたものです。
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劇場主催公演の開演時間に劇場はもっとコミットを

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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こまばアゴラ劇場「冬のサミット2009」に参加した突撃金魚の公演日程について、ブログ「休むに似たり。」が疑問を呈した。2/23(火)~2/24(水)の平日2日間3ステで、千秋楽が18時開演だったことについて、「誰を呼びたいのか、さっぱりわかりません」と指摘している。これに対しフェスティバルディレクターの杉原邦生氏が、コメント欄で次のように回答している。

公演スケジュールについては、毎回6~7団体の公演日程を調整するため、どうしても公平にはならないのですが、できるだけ多くのカンパニーをご紹介できるように実行委員会の方で頭を抱えながら組ませていただいております。
開演時間については概ね各カンパニーの判断になっております。

18時開演というのは、昨年議論になった「シアタートラム ネクスト・ジェネレーション」でのtoi平日18時半開演よりも早い。社会人の観劇は非常に難しいのではないだろうか。

昨年もそうだったが、開演時間の議論になると「観客は社会人だけではない」「学生はむしろ早い時間のほうが行きやすい」などの意見が出る。それ自体は間違いではないが、そう考える人はそもそも観劇人口がなぜ増えないのかを考えてほしい。若い世代は好奇心旺盛で時間の自由も利くので、元々演劇に接する機会も多い。これに対し、社会人になると時間がなくなり、せっかく演劇ファンだった人も劇場から遠ざかってしまう。小劇場の客層は常に若い世代中心で構成され、上の世代が卒業してしまう世代交代を繰り返している。小劇場の醍醐味を知った観客が、その後も劇場通いを続けてくれれば観劇人口は拡大していくはずだが、それが実現していないことが最大の課題なのだ。つまり、若い世代は放っておいても小劇場を観てくれるわけで、制作者が開演時間の設定で意識しなければならないターゲットは社会人なのだ。

作品によってはメインターゲットが若者だったり、学生にこそ観てほしいものもあるかも知れない。その場合は平日マチネや学生料金の設定などで対応すべきもので、一般の劇場で平日ソワレの公演時間を変えてまでターゲットを絞ることは、観劇機会の提供という劇場の公共性を考えると、私は違うのではないかと思う。特に公共ホールの場合は公共性が問われるだろうし、「冬のサミット2009」も文化庁芸術拠点形成事業の助成金を得て劇場主催で開催しているわけだから、そこは強く意識してほしいと思う。

突撃金魚は関西で注目を集めている若手カンパニーで、主宰のサリngROCK氏は第15回OMS戯曲賞、第9回AAF戯曲賞を受賞している。非常に勢いを感じる存在だ。関西の動向をチェックしている演劇ファンならぜひ観たいと思うだろうし、カンパニーにとっても在京の演劇関係者にお披露目する重要な東京初公演だったはず。それがこの公演日程では、私も「休むに似たり。」と同じ感想を抱いてしまう。私は予定が合わず観ることが出来なかった。非常に残念である。wonderlandの岡野宏文氏劇評「サリngROCKの優美な凶暴さ」を読み、その思いは増す一方だ。

千秋楽を18時開演にしたのは旅公演のバラシを考慮した結果だと思うが、単なる貸館ではない劇場主催公演なのだから、今後は開演時間をカンパニー側に判断させることは改め、劇場側がもっとコミットし、諸条件を擦り合わせながら決めるいくべきではないだろうか。少なくとも芸術拠点形成事業の劇場主催公演として、開演時間の最終決定権は劇場側が持つべきだと私は思う。

旅公演の関係でどうしても18時開演になるのなら、そもそもなぜ旅公演のカンパニーがこの日程になってしまったのかを考える必要があるだろう。「冬のサミット2008」でも、名古屋からの劇団うりんこが平日2日間3ステで、しかも千秋楽が14時マチネ終わりだった。うりんこは学校公演主体の児童劇だが、この公演は文学座の若手演出家を起用した大人向け作品で、もっと多くの社会人に見せたかったのではないだろうか。

サミット実行委員会も旅公演には出来るだけ週末を割り振る配慮をしているようだが、会期中の週末数には限りがあるわけで、参加団体の数とステージ数のどちらを優先するのか、劇場のミッションを考えた選択をしてほしい。あまりに少ないステージ数では、東京公演をしたという既成事実をつくるだけの公演になってしまい、その後につながっていかないはずだ。

「サミット」は劇場費・宿泊費無料、制作支援金ありという厚遇で、苦労して東京初公演をした私から見ると夢のような世界だ。だからこそ、その厚遇にふさわしい団体を東京の観客にきちんと日程を取って紹介してほしい。参加団体を絞ると競争率が上がることになるが、それはそれで仕方がないし、「サミット」自体のクオリティもさらに高まることになるのではないだろうか。「大世紀末演劇展」のポリシーを受け継ぐ企画であることを考えると、「サミット」は地域からの旅公演優先でいいのではないだろうか。

京都が本拠地の杉原氏もそのことはわかっているはずだ。私が杉原氏の作品に初めて接したのは、「夏のサミット2007」での木ノ下歌舞伎『yotsuya-kaidan』だが、このときは週末3日間5ステ(追加公演含む)という東京初公演にふさわしい日程で、だからこそ多くの観客に認知され、結果的に追加公演も打てた。フェスティバルディレクターとして、後に続くカンパニーにも同じ環境を提供してほしい。

(参考)
平日18:30開演はないだろう
続・平日18:30開演はないだろう

(2010年4月18日追記)

こまばアゴラ劇場は、「サミット」を2011年度から新しいフェスティバルにすることを4月8日発表した。年1回開催で「地域のカンパニーの紹介」という理念をより明確にし、1団体あたりの劇場使用期間は1週間程度として、週末公演の機会を保障するという。