扇町ミュージアムスクエアや近鉄小劇場などが閉館した大阪では、劇場のシフトが進み、これまで演劇ではあまり使われなかったホールでの公演が増えています。私が主張してきたように、物理的にホールがないわけではなく、演劇で使われなかったところが開拓され始めたわけですが、ここで関西特有の「劇場同士が相互協定を結び、提携公演のチラシを一緒に折り込む慣習」に変化が起きているようです。
この慣習は、京阪神劇場連絡会が中心となって各劇場の主催公演や提携公演のチラシを交換することで、折込要員を派遣しなくてもバーターで作業してくれるというものです(東京の方が誤解するといけないので書いておきますが、劇場スタッフがやってくれるわけではありません。関西は全員で共同作業する方式なので、折込種類より折込要員が少なくても可能なのです)。関西の劇場が行なう制作協力の代表例で、多くのカンパニーが恩恵を受けてきました。東京では、最近始まったこまばアゴラ劇場とネビュラエクストラサポート(Next)の相互協定が近いイメージだと思います。アゴラを使う公演のチラシがネビュラ束に自動的に入るもので、関西では劇場同士が同じ仕組みを構築しているわけです。
演劇で使われることの少なかったホールでの公演が増えた場合、この慣習がどうなっていくのか。次に起こるであろう変化として私は非常に注目していたのですが、「pinkish!blog」にまさにその現状が書かれています。これまで近鉄小劇場を使っていたクラスのカンパニーがワッハホールにシフトしているため、「折り込みたければ折込要員を派遣する」という東京では当たり前、けれど関西では初心に戻ったような現象が起きているそうです。
私は、これまでの仕組みを見直すよいきっかけだと思います。[ナレッジ]の末尾でも触れているのですが、最近は提携公演や協力公演といった冠が増えすぎ、バーター扱いのチラシが山のようにあります。提携公演にしてもらえる中堅以上のカンパニーは天国ですが、実際に作業する若手カンパニーにとっては地獄でしょう。この仕組みは、関西への旅公演がめずらしかった時代の過渡的措置で、もはや廃止すべきものではないでしょうか。そうでないと折込要員が疲弊して、せっかくの美しい関西方式の折込作業自体が破綻してしまうでしょう。さらに一歩進んで、提携公演という考え方自体をなくしてもいい時期ではないでしょうか。
提携公演になると、劇場使用料割引に加えてチラシ折込作業から開放されるわけで、関西の制作者たちは「いかに提携公演にしてもらうか」を、この15年ぐらい競い続けてきました。極端な話、提携公演にしてもらうことが制作者最大のミッションだったかも知れません。しかし、制作者が本当に取り組まなければならないことは、もっとほかにあるはずです。劇場側も、これだけ提携公演が増えたのなら、一度すべてを白紙に戻して、提携公演という概念そのものをなくしてしまったらいいと思います。
東京には提携公演はほとんどありません。その代わり、劇場を借りたいというカンパニーが多いので、人気の劇場では普通に借りること自体が競争になります。劇場側も長く借りてくれるところに貸したいわけですから、週末だけの公演のような使い方では難しく、1週間単位の契約が基本です。稼働率に苦しんでいる関西の劇場も、提携公演を全廃する代わりに劇場使用料を引き下げ、条件として1週間単位でしか貸さないという改革をここで導入したらどうでしょう。週の前半が遊んでいるくらいなら、劇場使用料を下げてでも貸したほうが、演劇の活性化につながります。週末中心の公演という悪癖を絶つ最大の特効薬だと私は考えます。
旅公演の折り込みはどうするのか、関西でも人手がいないカンパニーはどうやって折り込むのかという問題が残りますが、これは関西在住の制作者たちが仕事として請け負えばいいと思います。自力で折込要員を出せないなら、現地制作を雇ったり、他の制作者に依頼することで解決するしかありません。キョードー大阪も4月から1枚5円で同社扱い公演へのチラシ折込代行を始めました。「金がすべてかよ」と思われる方もいるでしょうが、制作者にギャラが支払われる仕事を増やし、演劇制作だけで制作者が食べていける世の中にするのが私の願いですから、この動きは大賛成です。舞台スタッフにはきちんとギャラを支払うのに、制作スタッフは「おまけ」のような感覚でギャラが正当に支払われなかった関西小劇場界を、抜本的に変えるチャンスが訪れているのです。関西の制作者は積極的に売り込んでほしいと思います。pinkish!の小林みほプロデューサーはカムカムミニキーナ関西公演(大阪・奈良・滋賀)の制作協力を獲得されたそうで、この調子で活躍していただきたいものです。
現状を大きく変える提言ですので、違和感を覚える関西の演劇人もいるでしょう。しかし私は、関西と東京を客観的に見比べられる立場になって、関西の劇場稼働率を上げたいと考えたときに、提携公演の在り方を揺さぶって演劇制作そのものを変えていくという発想は、切り札となる戦略だと思っています。京阪神劇場連絡会の方々にも、ぜひ討議していただきたいと思います。
トラックバック、恐縮です。この問題に対しては色々考えることもあり、何回かにわけて整理していきたいと思っています。
先人たちがつくってきた道をたどっていくだけでは、駄目だということが意識として広まればいいのですが。
演劇制作者の仕事を見直そう
fingeの blogにも書かれていますが、制作の仕事で正当なギャラをもらうためには、まず、自分達の仕事をきちんと見直さなければならないと思います。 ビジビリティという言葉があります。「ビジビリティ」(visibility)とは可視性、(社会的)認知(度),、知名度という意味で…
ロクソドンタブラックのプロデューサーをしています。提携公演をなくすというは僕も賛成です。「その団体を選んだ基準が見えない」のと「単なる値下げと同じではないか」というのが、主たる理由です。
当劇場では、主催公演以外の提携公演はほとんど例がありません。