この記事は2017年10月に掲載されたものです。
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OMS戯曲賞は大賞受賞作品再演に対する助成を「受賞翌年度」から「受賞翌々年度」に延長してほしい――匿名劇壇『悪い癖』が東京公演しないのは惜しすぎる

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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匿名劇壇『悪い癖』(再演)

いま関西でも最も勢いがあると言われている若手カンパニー、匿名劇壇の代表作『悪い癖』がAI・HALL(兵庫県伊丹市)で10月26日~29日に再演中だ。

この作品は同劇場の次世代応援企画「break a leg」(文化庁劇場・音楽堂等活性化事業)として2015年5月に初演され、16年12月に第23回OMS戯曲賞(主催/大阪ガス)大賞を受賞した。大賞受賞作品は賞金30万円とは別に、「原則として、大賞受賞作品を受賞翌年度の3月末日までに再演する場合には、追加で50万円を助成」という規定がある。つまり、『悪い癖』を18年3月末日までに再演すれば、大阪ガスが50万円助成する。若手カンパニーにとって、決して少なくない金額だろう。

再演を促すこの助成自体は素晴らしいと思う。OMS戯曲賞は応募前年(1月~12月)に書き下ろし上演された作品が対象なので、受賞翌年度の再演ということは、優れた作品が3年3か月以内に再演されることを意味する。新作偏重になりやすい小劇場演劇に、再演文化を定着させるための優れた施策だ。『悪い癖』も2年5か月ぶりの再演となった。

一方で、OMS戯曲賞大賞を受賞した作品は、名実共にそのカンパニーの代表作と言える。特に若手が受賞した場合、その作品で東京公演を行ない、真価を問いたいと思うのが自然だろう。そのため、再演するなら関西だけでなく、東京公演と合わせたツアーにするのが公演制作のセオリーだと思う。

匿名劇壇は、16年10月に樋口ミユ氏主宰の「Plant M」と共同で東京を含めた3都市ツアーを行ない、17年5月には単独で『レモンキャンディ』東京ツアーを行なった。後者は東京でも反響を呼んだ。このペースで東京公演を仕掛けている若手が、『悪い癖』を東京で上演したいと思わないわけがない。それが関西だけという理由を考えると、18年3月末日までの再演期限が大きなハードルになったのではないか。

第23回OMS戯曲賞は16年12月6日に決定した。ここから新たに17年度内の東京公演を計画しても、希望する劇場はすでに一杯だろう。当然ながら関西でも上演するので、12月に翌年度の2劇場を合わせて抑えるのがいかに困難かは、経験した制作者なら誰でもわかるはずだ。しかも『悪い癖』は初演のAI・HALLが提携公演することになり(AI・HALLにとっても喜ばしいことだろう)、その舞台サイズと合う劇場を東京で好条件で見つけるには遅すぎたと思う。東京公演を対象に出来る助成金も、12月だと締め切っている。結果的に、この再演は伊丹公演のみになったと想像する。

匿名劇壇が本気なら、最初から東京での年2回公演を計画し、予め秋にも劇場契約しておくべきだったという意見もあるかも知れない。これは中堅クラスのカンパニーならそのとおりだが、匿名劇壇の場合は17年5月に初の東京単独公演を行ない、その結果を見ながら今後の公演ペースを検討しようとしていた矢先の受賞だったのではないか。

地域のカンパニーにとって、年2回の東京公演は理想だが、そこまでの体力が備わっているのか、当初は自分自身でもわからない。まさにそれを計ろうしていた時期の劇場確保が後手になったのは、私自身の経験と照らし合わせても責められないと思う。首都圏のカンパニーと違い、地域のカンパニーには地元公演とは別に、東京公演という体力を奪いかねない事業を計画する難しさがあるのだ。最初は慎重になって当然だろう。

現行の規定に沿っての判断だと思うが、それにしても惜しい。あと1年、時間をかけてAI・HALLに合った東京の劇場を探し、『悪い癖』の伊丹・東京ツアーが19年3月末日までに実現出来ていたらと思う。OMS戯曲賞大賞受賞作品なら、東京の公共ホールも門戸を開いたのではないか。OMS戯曲賞が関西在住の劇作家を後押しするものなら、大賞受賞作品が東京公演で真価を問うことも考慮し、再演準備期間を充分に取ることも認めてよいのではないか。再演年度が確定しないと、助成する大阪ガスの予算が期ズレになる可能性もあるが、大阪ガスにとって50万円は誤差の範囲だろう。

以上の理由から、主催の大阪ガスと運営の大阪ガスビジネスクリエイトは、OMS戯曲賞の大賞受賞作品再演に対する助成を、「受賞翌年度の3月末」から「受賞翌々年度の3月末」に延長してほしい。