この記事は2011年11月に掲載されたものです。
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公演をしていない劇場は、単に〈ホールのある建物〉だと思う

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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小劇場演劇を観続けて30年近くになる。この間、小劇場を巡る環境は大きく変化したが、一方で全く変わっていないと感じるものがある。それは東京以外の公演日数の短さだ。1週間単位の公演が東京で定着したのに対し、それ以外の地域は週末の数日間が相変わらず多数を占めている。

本来、公演日数は誰もが気に留めているはずだ。長い準備を重ねてきた作品が数日しか上演されないこと自体が文化的損失で、その作品を世の中に問う機会を逃している。短期間での仕込み・バラシの繰り返しは、劇場やスタッフの経済的損失につながり、業界自体が成長していかない。手軽に公演を打てるのは小劇場演劇の特徴でもあるが、それに安住して縮小再生産を続けているのが、現在の地域の実情だと思う。

ロングランという言葉が適しているかわからないが、劇場を2週間契約し、12日間上演してほしいという願いを込めて、私は2006年に「ロングラン定着で小劇場演劇から〈負の連鎖〉を断ち切れ!」を書いた。この文章では、公演日数が長くなることで淘汰が進むことを念頭に置いたが、もっと多くの人に劇場に足を運んでもらうためにも、公演日数を長くすることが重要だ。観劇機会の提供は演劇人のミッションだと思う。

いきなりロングランを目指すことは確かに難しい。だが、段階を踏みながら、3日間から5日間、次に7日間と増やしていくことは、決して夢物語ではないはずだ。そうした地道な努力を全国のカンパニーが継続していたら、小劇場の環境はもっと変わっていたと思う。地域でロングランに挑戦するカンパニーも散見するが、まだ全体の意思として定着していない。行政やサービスオーガニゼーションによる創造環境整備が進んでいるにも関わらず、肝心の公演日数が延びないのはなぜなのか。

演劇関係のセミナーやワークショップで公演日数がテーマになることはほとんどない。芸術面を支援する企画もいいが、公演が週末だけではなにも変わらないだろう。興行面と直結する内容だけに、公的な場では避けられてきたのかも知れないが、カンパニーの立場になって、どうしたら公演日数を一日でも長く出来るか考えることが重要ではないか。そうした思いで、ラウンドテーブル&ケーススタディ「地域での小劇場ロングランをめざして」を企画した。

今回は京都での開催となった。公演日数が長いとは言えない関西の演劇人と問題意識を共有し、いまなにが出来るかを具体的に考えてみたい。公演日数を延ばすには劇場側の施策も欠かせない。関西と東京で体系が異なる劇場費や、劇場契約に対する考え方自体もロングランに影響しているのではないか。ロングランを支援する様々な試みを続けてきた劇場プロデューサーを招き、劇場と共に公演日数を長くする方法を考えたい。

地域では、本業を別に抱える俳優も少なくない。平日の公演は大きな障壁だが、そうしたプライベートな事情を先輩カンパニーがどうやって克服したかも話したい。地域でロングランは無理と決め付けるのではなく、課題を整理し、少しでも公演日数を延ばすためになにが出来るかの具体的検証が必要だ。ロングランという言葉に気後れせず、1日ずつでいいから延ばすことを考えていこう。

私は、いつ行ってもなんらかの公演が行なわれている場所が劇場であってほしいと願う。普段閉ざされていて、限られた週末だけ公演が行なわれる場所を劇場と呼びたくない。どんなにアウトリーチ活動が盛んでも、肝心の公演がたまにしか開催されないのは本末転倒ではないだろうか。公演がいつも行なわれている劇場――それが私の考える劇場であり、そうでなければ単に〈ホールのある建物〉だと思う。

皆さんとディスカッション出来ることを楽しみにしている。