札幌で活動する街頭演劇パフォーマンス集団「札幌ハプニング」。地元では有名な存在だが、全国的にはあまり知られていないようなので、改めて紹介しておきたい。
札幌ハプニングは、札幌市教育文化会館が毎年8月に開催する「教文演劇フェスティバル」に集まった演劇人たちから生まれた企画で、2009年1月にスタートした。有志による企画だが、同会館事業課勤務の山下智博氏がディレクターを務め、同会館と協働する形になっている。演出は弦巻啓太氏(弦巻楽団主宰)が手掛けている。
「日常の中で、不特定多数の人に違和感を覚えてもらえるような害の無いイタズラ」を標榜している彼らが参考にしたのは、ニューヨークのImprov Everywhere。こちらは01年から活動開始し、全米で数々の名作を生み出してきた。駅のコンコースで207人が同時に静止する「Frozen Grand Central」、少年野球をよってたかって盛り上げる「Best Game Ever」、フードコートで突然ミュージカルが始まる「Food Court Musical」などは必見。アメリカ人はミュージカル慣れしていると思っていたが、隣で突然始まるとやはり驚くものらしい。
札幌ハプニングはスタート時の「プレハプニング」以外に、これまで4回の本格ハプニングを決行し、YouTubeで公開している。これ以外にワークショップ型の「札幌ハプニング作戦会議」や、小ネタイベントも随時開催している。
プレハプニング「右見て、左見て」09年1月31日
⇒みんなで大げさに左右を確認し、手を挙げて横断歩道を渡る。
(画像のみ)
ハプニング#1「食パンダッシュ」09年4月16日
⇒遅刻しそうになり、みんなで食パンをくわえたまま走る。
ハプニング#2「ランナウェイ花嫁」09年7月4日
⇒結婚式場(会場協力:札幌市時計台)から花嫁を奪って逃げる男をみんなで追いかける(「その後」編もあり)。
ハプニング#3「ダウジング・サン2009 in EZO」09年11月22日
⇒大通公園でみんなでダウジングする。
ハプニング#4「追跡ディテクティブ」10年7月11日
⇒とある親子をみんなであからさまに尾行する。
彼らが注目を浴びたのが「食パンダッシュ」で、ありそうでなさそうな光景の実現という意味で秀逸だ。「遅刻する食パン少女」は少女漫画の定番と思っていたら、実際にはそんなシーンはないとの研究成果もあり、日本人の潜在意識を呼び起こす好企画だと思う。
Improv Everywhereは、仕事のないインプロ俳優の思いつきから始まった。表現の場は自ら創り出すという表現者にとって大切なことを、私たちに再確認させてくれた。これは地域で活動する演劇人にとって、絶対に忘れてはならないことだ。札幌ハプニングが街の新しい風物詩になればいいが、演劇人はそこに表現の場の獲得という意味があることを実感してほしいと思う。
関西の方はここまで読んで、京都のフリーペーパー『SCRAP』が展開しているイベントと似ていると思ったのではないだろうか。アプローチの方法が異なるが、空間を使った世の中を楽しくするイベントということでは同じだと思う。ヨーロッパ企画が『SCRAP』と一緒に人脈を広げていったように、札幌のカンパニーも札幌ハプニングをうまく使って、劇場外での活動の幅をどんどん広げたらいいと思う。奇しくも『SCRAP』は6月号が「スパイの特集」で、7月24日に参加型リアル尾行イベント「スパイ小作戦」というのをやっている。札幌ハプニングの「追跡ディテクティブ」とあまりにシンクロしていないか。これを書きながら私も驚いた。
小樽出身の山下氏は大阪芸大でアーツマネジメントを学び、学生時代から数々のアーツイベントを手掛けてきた。私の経験から言うと、現代美術系と小劇場系はあまり馬が合わないことが多いが、山下氏は両者をうまく融合させているようだ。まだ20代半ばの若手だが、「教文山下」と言えば地元で知らない者はいない存在となっている。間違いなく札幌のキーマンの一人だろう。
山下氏は9月24日に東京・Asagaya/Loft Aで、山下智博プレゼンテーション「最強のモテ理論」というソロ公演をやる予定。YouTubeにある「モテ講座」の最新版と思われる。山下氏に興味のある方はどうぞ。
山下氏はアーツマネージャーとして、真摯な個人ブログも書かれている。これとは別に、会館職員としてのブログも始めるようなので、「制作者は語る」に追加しておく。