上演中のスマホ、私語への対応について、これまで多くのツイートをしてきたが、参考となるよう主なものをまとめておきたい。新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」が登場してからは機内モードが推奨されるようになり、必ずしもこのとおりではなくなっているが、時計代わりに画面を光らせたり、連れの人に感想をしゃべるなど、注意喚起すべき点は多く残っていると思う。
無意識にスマホを触ってしまう人が多いのは、これはもう紛れもない事実で、触らない人のほうが少ないぐらいに考えたほうがよいと思う。高い倍率を勝ち抜いて観に来ているNODA・MAPのようなレアケースは除き、注意喚起する前説自体はこれからもなくせないだろう。だが、舞台芸術なら単なる注意ではなく、それ自体を作品の一部、あるいは前説自体がパフォーマンスとして成立するようなクオリティを見せるべきだと思う。それこそが当日運営スタッフの価値を高め、差別化にもつながるのではないだろうか。
(前説の必要性)
スマホに関する前説がなく、上演中はLINE着信音が止まらず、画面を光らせる観客複数の公演に出会う。NODA・MAPのように前説なしで上演出来る公演は理想だが、ほとんどの公演は工夫した前説が不可欠だと改めて感じた。普段劇場に来ない人は、老若男女とも悪気なく、無意識にスマホに触ってしまうので。
— fringe (@fringejp) July 31, 2022
携帯の電源を切ることをマナーに頼るのではなく、強制力のあるルールにする時期かも知れない。「未就学児童入場不可」「営利目的の転売禁止」同様、チケット購入時の同意事項とし、券面にも記載するのだ。それなら観ないという人もいるだろうが、それは仕方ないと思う。劇場は茶の間ではないのだから。
— fringe (@fringejp) April 7, 2018
ちなみに、映画館でスマホを光らせた場合の再現モデルがこちら。周囲が暗いと本人の想像以上に目立つ。https://t.co/QWk6Ym5mhx
— fringe (@fringejp) December 2, 2018
(前説の工夫)
前説のテクニックはもっと研究されるべき。例えば、観客は俳優の言葉なら素直に聞く傾向があるので、演出上ダメな場合を除き、ファーストシーンに登場する俳優が前説して、そのまま明転板付きで芝居を始めたらいいと思うのだが、そんな作品は少ない。私が制作者なら、演出家とそうした点も相談もする。
— fringe (@fringejp) December 27, 2016
この手法は少しずつ見かけるようになったが、まだまだ少ない。
出演者のファンが携帯を切らない場合は、その俳優自身に前説をしてもらうのが最も効果的だと思う。出番の関係で難しいなら、録音したナレーションでもいい。携帯を鳴らしたり光らせることが、自分の推している俳優の作品を壊し、俳優を悲しませる行為であることを、俳優から伝えてもらうのがいちばん。
— fringe (@fringejp) November 22, 2019
冗談ではなく、スマホの電源の切り方を知らない(電源ボタンを押すだけと思っている)観客が一定層いる。前説では「スマートフォンは電源ボタンを長押しし、画面に表示される電源メニューを~」まで言ったほうがよい。切り方の紙を配ってもいい。 https://t.co/fLLUW9Juuy
— fringe (@fringejp) July 18, 2016
このあと、fringe[ナレッジ]に自由にダウンロード・配布出来る「スマートフォンの電源の切り方」を掲載した。
私の経験上も、上演中にスマホを時計代わりに見るのは年配客が多い。光が邪魔になるという認識がないように思える。前説では「光が漏れて演出効果の妨げになりますので、時計代わりに見ないでください」もぜひ強調してほしい。 https://t.co/RqiHSPWH43
— fringe (@fringejp) December 2, 2018
そうですね。機内モード容認派もいるし、だったら「光が漏れて演出効果の妨げになりますので、時計代わりに見ないでください」まで言わないと。前説する側がおかしいと思う公演が多々あります。 https://t.co/licjmdj6eR
— fringe (@fringejp) April 7, 2018
新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」で機内モードを推奨するなら、代わりに「時計代わりに見ないで」をセットで言うべきだろう。私の知る限り、これをいちばんしっかりアナウンスしているのが、ヨーロッパ企画である。
(当日運営スタッフに求めること)
前説問題。課題は最後の前説以後に入場した観客への周知で、本来はもぎりや場内整理スタッフが「携帯はお切りになりましたか」と声掛けすべきだが、この連携がうまく行っていない公演が多いように思う。これが出来ている当日運営チームの能力は高い。開演直前に入場した際は、この点を観察するとよい。
— fringe (@fringejp) December 28, 2016
劇場で携帯電話の電源を切ることに関して、私は当日運営を担当する制作者の努力が足りないと感じる。前説のアナウンスだけでは切らない観客が一定数いることを前提に、別の工夫が必要。演出家や俳優から訴えさせたり、CAが救命胴衣の説明をするように一緒に操作するなど、前説自体を変えていかないと。
— fringe (@fringejp) April 7, 2018
携帯の電源を切らせることは、当日運営の本気度が試されていると思う。当日運営は外注も多いが、「自分に発注すれば手法を駆使して携帯を切らせてみせる」という制作者がいれば、高いギャラでも頼みたい劇団がいるはず。当日運営の待遇改善を訴える人は、そうしたプロとしての差別化を目指すべきでは。
— fringe (@fringejp) April 8, 2018
ANAの機内安全ビデオが松竹全面協力で歌舞伎をテーマにしたものに変わり、見入ってしまう。演劇の前説も作品に合わせた内容にすれば、観客に浸透するはず。通し稽古を見て、オリジナルの前説を企画出来る当日運営がいるなら、追加料金を払ってもいいと思う主催者は多いはず。https://t.co/nvQJp5fTsr
— fringe (@fringejp) March 10, 2019
私が当日運営を外注する立場で、携帯電話の電源オフとおしゃべり禁止を徹底出来る前説を実現する制作者がいれば、追加で15万円払ってもいいと思う。有料動員1,000名なら150円の値上げになるが、きちんと理由を公表して理解を求める。これで作品に集中出来るなら高くないと思う。これが価値の有償化だ。
— fringe (@fringejp) March 10, 2019
(最後の前説から続けて開演を)
映画館は上映前にマナームービーが2回は流れる。劇場は前説がないときがあり、そんな公演は大抵携帯が鳴る。映画館が本編直前に「NO MORE 映画泥棒」を流すように、最後の前説に続けて上演したら効果的だと思うが、なぜか少ない。時間が空くと、開演直前に来場した観客が前説を聞いていない。
— fringe (@fringejp) December 27, 2016
前説自体は誰がやってもいいが、「それでは開演までしばらくお待ちください」で間が空いてしまうのが課題。最後の前説は開演直前に行ない、続けて上演がいい。これを実現するには、最後の前説終わり=開演きっかけになるようリハして、舞台監督の開演キューは最後の前説に対して出すようにすればいい。
— fringe (@fringejp) December 28, 2016
開演直前の最後の前説は、「それでは開演までしばらくお待ちください」ではなく、少しトーンを上げて「それでは開演です」で締めてほしい。客席が凛とする。映画館のIMAXカウントダウンと同じ。運営と舞監の連携が不可欠で、これが出来る現場は限られる。KAATプロデュース『人類史』ではこれが聞けた。
— fringe (@fringejp) November 9, 2020
(参考になる事例)
ワイヤレスマイクを使った公演で「電波干渉を防ぐために電源をお切りください。実際にトラブルがありました」という前説があり、携帯の確認をした観客がとても多かった経験がある。作品の価値が損なわれると認識されれば、他人事から自分事になり、自分も損をするので電源を切ろうと思うのではないか。
— fringe (@fringejp) November 30, 2019
空晴『明日の遠まわり』。東京千秋楽の岡本康子氏(TRASH²)の前説は、私が知る彼女の前説で最も熱かった。携帯を電源から切るよう案内し、公演中1回だけバイブが響き、客席では広範囲に伝わることを訴え、「皆様のお時間を90分だけ空晴にお預けください」。これで再確認する観客が続出。最後は拍手。
— fringe (@fringejp) August 4, 2019
「携帯電話・スマートフォンを電源から切り、皆様のお時間を××分だけ××××にお預けください」
文字にすると空々しいかも知れないが、前説だと心に響く。このあと他の話題で少し引っ張り、確認する時間をつくるのも岡本氏のテク。他の観客の確認行動を目の前で見せつけるのだ。ぜひ見習いたい決め台詞。
— fringe (@fringejp) August 4, 2019
逆に、開演前の注意アナウンスが効果的だった最近の例は、ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』『―ワンスモア』。普通の内容を流したあと、出演者・本多力氏の声で重ねて呼び掛け。この劇団で懸念される私語について、特に念入りに懇願。「携帯を時計代わりに見ないで」も言い続けている。
— fringe (@fringejp) September 16, 2018
ヨーロッパ企画『ギョエー!旧校舎の77不思議』。前回公演に続き、開演前の注意アナウンスは普通の内容を流したあと、出演者・本多力氏が配役に合わせた呼び掛け。学校の担任として、三つの標語で私語・携帯電話・前のめり禁止をユニークに諭す。帽子を取ることも忘れない。前説の集大成のような内容。
— fringe (@fringejp) August 17, 2019
ナイロン100℃『百年の秘密』。4月12日の1幕で客席から解説する声が何度か聞こえた(離れていてもわかるほど)。2幕の前説でスタッフが明らかにこの観客に向け「お客様同士のおしゃべりは……」とアナウンス。休憩時間にも直接注意したのか、2幕は静かだった。こうした臨機応変の対応が重要だと思う。
— fringe (@fringejp) April 14, 2018
なお、業務上どうしても着信を切れないという人への考えは、2001年から変わっていない。
携帯電話の規制については、緊急連絡が入る可能性のある職業への配慮から異論もある。しかし、劇場が地下にあって最初から圏外になっている場合はどうしようもないのだから、電波の届く劇場で切れないという主張は論拠が薄いように私は感じる。最も緊急性の高い連絡は人命に関わるものだが、果たして観劇中のその人しか対応出来ないという事態があるのだろうか。どんな組織であれ、必ず代わりの人材がいるはずではないだろうか。そうでないと、逆にその人が倒れたらその組織はどうなるのだろうと思う。
もし本当に一刻を争う立場にいるのなら、入場時に携帯電話を受付に預け、連絡があったら客席まで呼びに来てくれるよう依頼すればいい。客席で携帯が着信することを防げるなら、フロントスタッフは誰でも喜んで引き受けるはずだ。制作者にとって、客席の携帯電話ほど憎むべき存在はないからである。
(最後に)
演劇ライター・吉永美和子氏のツイートだが、私もその場に居合わせたときは同じ思いである。
上演上映中に着信音やバイブ鳴らしたり液晶画面光らせた観客の椅子の底が抜けて、ひとしくん人形みたいに没シュートされる機能が早く開発されますように。
— 吉永美和子 (@Yoshine_A) May 1, 2017