『シアターアーツ』「2021AICT会員アンケート」再演の魅力と可能性を実感

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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4月発行予定のAICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』(晩成書房)66号に掲載される「2021AICT会員アンケート」に参加させていただいた。

今回は「実験的・先駆的作品/アーティスト」のカテゴリーがなくなった以外、ほぼ従来どおりの選出方法に戻った。「新人アーティスト」の定義は各自に委ねられているので、40歳未満で意欲的に活動されている方という観点で選ばせていただいた。66号ではジェンダー特集が組まれるため、年間回顧とは別に「これまでに観たジェンダーに関するベスト舞台」の項目もあった。

「優れていた作品」のうち、二兎社『鷗外の怪談』はキャストを一新しての再演、風姿花伝プロデュース『ダウト~疑いについての寓話』は同じ演出家(小川絵梨子氏)による別団体での上演である。さらに前者は、モチーフや登場人物が重なる劇団チョコレートケーキ『一九一一年』の再演もあり、感動の連鎖が起こった。再演の魅力と可能性を実感した一年だった。

■優れていた作品(5本、順位あり)
(1) NODA・MAP『フェイクスピア』東京芸術劇場プレイハウス
(2) 二兎社『鷗外の怪談』東京芸術劇場シアターウエスト
(3) 風姿花伝プロデュース『ダウト~疑いについての寓話』シアター風姿花伝
(4) 阿佐ヶ谷スパイダース『老いと建築』吉祥寺シアター
(5) DULL-COLORED POP『丘の上、ねむのき産婦人科』ザ・スズナリ

■優れていたアーティスト(3名まで)
○野田秀樹(劇作家・演出家・俳優/NODA・MAP)
○谷賢一(劇作家・演出家・翻訳家/DULL-COLORED POP)
○那須佐代子(俳優・プロデューサー/風姿花伝プロデュース)

■新人アーティスト
小沢道成(劇作家・演出家・俳優/EPOCH MAN)

■年間回顧(400字程度)
 コロナ禍で収容率の制限が続く中、その間隙を縫って『フェイクスピア』が完走したのは、この作品を出来るだけ多くの観客に目撃させたいという演劇の神様の意思ではないかと感じた。そう思わずにはいられない、言霊の力があった。21世紀以後の野田秀樹ベストワンではないだろうか。
 晩秋に上演された『鷗外の怪談』は、夏に上演された劇団チョコレートケーキ『一九一一年』と同じ大逆事件をモチーフにし、登場人物も重なる。両作品がこの順番、この間隔で再演されたことで、思いが共鳴し合い、感無量になる。この偶然も演劇の神様の差配ではないかと思う。
 文化庁「ARTS for the future!」の審査が遅れ、年末は大変な公演ラッシュとなった。力作が続く中、ひときわ印象深かったのが『ダウト~疑いについての寓話』。劇場支配人でもある那須佐代子の演技は、小さなシアター風姿花伝を日本を代表する空間にした。これも小川絵梨子の再演出で、意義のある挑戦が続いた。

■年間の観劇本数
約60本

■これまでに観たジェンダーに関わるベスト舞台
serial number『すこたん!』ザ・ポケット(2021年)

■上記に対するコメント(100字程度)
 実在するゲイコミュニティのリアルな報告劇は、これまで記憶にない。社会派で取材を重ねる詩森ろばが、東日本大震災から培った重い内容をエンタメに仕立てる手法で、現在進行形で進むテーマに演劇が出来ることを示した。

「これまでに観たジェンダーに関わるベスト舞台」が2021年の作品になったが、演劇が社会を見つめ、公演によって観客の意識をアップデートしていく役割を担っているのであれば、最新作がベストになるのは自然ではないかと思う。