この記事は2021年2月に掲載されたものです。
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緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター支援事業「Japan Digital Theatre Archives」(JDTA)公開

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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新型コロナウイルス感染拡大に対する令和2年度第2次補正予算で始まった文化庁「文化芸術収益力強化事業」。従来の入場料収入に頼った事業構造の抜本的改革を促し、活動の持続可能性を高めるもので、配信による新しい鑑賞環境の確立など、芸術団体等の収益力確保・強化の取組を実践するものだ。

このうち、寺田倉庫株式会社(東京都品川区)が緊急事態舞台芸術ネットワークと共同提案したのが、「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター支援事業」(EPAD、Emergency Performing arts Archive + Digital theatre)。公演映像・舞台写真・チラシ、戯曲、舞台美術資料のデジタルアーカイブとスタッフ技術のeラーニングを行なうもので、2月23日にEPADポータルサイトと、早稲田大学演劇博物館が制作した「Japan Digital Theatre Archives」(JDTA)が公開された。新規の収録を支援するだけでなく、既存作品の収集と権利処理による配信可能化を目指したところが特色だ。

公開されるまで両サイトの関係性で不明な部分があったが、公演映像・舞台写真・チラシのデジタルアーカイブはJapan Digital Theatre Archivesが本体で、EPADポータルサイトはその楽しみ方を紹介するコンテンツのようだ。ヘッダーに「アーカイブを、記憶/感覚再生装置にみたてるサイトです。」とあることからも、そのように思われる。戯曲(533本)はメタデータがJapan Digital Theatre Archivesから検索可能になり、閲覧は日本劇作家協会が制作した「戯曲デジタルアーカイブ」(2月28日公開予定)になるようだ。日本舞台美術家協会が収集した舞台美術資料(13名約1,500点)の連携がどうなるかは今後を待ちたい。

Japan Digital Theatre Archivesに登録されている公演は本日現在1,078件で、うち118件で3分程度の抜粋映像が視聴可能(YouTubeで限定公開)。今後、早稲田大学演劇博物館内で全編を視聴可能にしたり(要事前予約)、配信プラットフォームで公開していくとのこと。早稲田大学演劇博物館「演劇上演記録データベース」はよく利用させていただいているが、検索結果で資料があることはわかっても、現物を閲覧するには博物館に足を運ばないといけない。Japan Digital Theatre Archivesでは舞台写真やチラシが画像で公開されており、一部はチラシ裏面も拡大で見えるのがうれしい。演劇にとってチラシ裏面の情報はアーカイブとして本当に貴重なので、チラシだけでも公開を進めていただきたい。

寺田倉庫は、本企画にふさわしい事業者だと思う。美術品やワインの保管を基幹事業とし、後世への保存や修復を掲げているアーカイブスを体現した企業だからだ。本拠地である東京・天王洲の倉庫街を再開発し、レストランやギャラリー、アトリエなどが集積した一大アート拠点になっている。1980年代後半にT.Y.ハーバーシアターを開設し、伝説の作品が上演されたことを知る人もいるだろう。企業スペースを活かした小劇場はまさにベニサン・ピットのような存在で、ここで上演することは演劇関係者にとって憧れだった。ちなみに現在も活動するカンパニーでは、風琴工房(現・serial number)が2000年に『透きとおる骨』を上演している。2019年にオープンしたTHEATRE E9 KYOTO(京都・東九条)のネーミングライツで、新たな民間小劇場の誕生を支えたことも記憶に新しい。

文化芸術収益力強化事業では、ほかにもEPADと同じ区分で採択された他事業の進捗状況を文化庁ホームページで確認することが出来る。全国公立文化施設協会の「公文協シアターアーカイブス」、プリコグの「THEATRE for ALL」も同じ事業だ。

文化芸術収益力強化事業は3月末までの事業で、その後は事業評価を行ない、「費用対効果を検証することで、文化芸術団体等の持続的な活動のあり方を検討する」となっている。今回は全体で約60億円の予算規模だが、今後どうなっていくかを注目したい。少なくとも、Japan Digital Theatre Archivesは早稲田大学演劇博物館に置かれたことで、未来に継承していくことが担保された。そして、岡室美奈子館長は「これはまだ序章に過ぎません」と語っている。

全国にはまだまだ膨大な舞台公演映像が日の目を見ることなく眠っています。これを機に貴重な舞台映像や戯曲が散逸することなく、あるいは死蔵されることなくエンパクに集まるようになっていけば、日本の舞台芸術の多様で豊かな歴史が確実に未来に継承されていきます。みなさまのさらなるご協力とご支援を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

これを読んでいる演劇関係者の方も協力をお願いしたい。