この記事は2020年9月に掲載されたものです。
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文化庁「文化芸術活動の継続支援事業」で採択されるべき舞台芸術関係者は、少なくともあと1万人程度いるだろう

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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新型コロナウイルス感染拡大で活動自粛を余儀なくされた芸術文化関係者を対象に、国の第2次補正予算で実現した文化庁「文化芸術活動の継続支援事業」。総額509億円の予算が組まれたが、9月11日までに採択されたのは約28億円分だという。

しんぶん赤旗「文化補助金改善を 関係者と吉良氏要請 “窮状に合わず”」

この事業で文化庁は、個人向けには「10万人に対して20万円ずつを想定した」という。

日経電子版「500億円の文化支援 申請なかなか伸びず」

では、そのうち舞台芸術はどのくらいを想定し、どのくらい採択されたのか。根拠となる数字がないと実感がわかないので、前回の国勢調査結果(2015年実施)で確認することにした。

15年の国勢調査の職業分類では、次の小分類がある。

23a 舞踊家,俳優,演出家,演芸家
24p 個人教師(舞踊,俳優,演出,演芸)

23aは俳優・演出家だけでなく、舞台装置家、プロデューサー、照明家なども含まれるとあり、この小分類で舞台芸術をほぼ網羅していると思う。個人教授は別の24pになっているので、これも加える。

国勢調査結果は、「平成27年国勢調査 抽出詳細集計(就業者の産業(小分類)・職業(小分類)など)」(表番号:01000)を使用する。この事業は、個人は個人事業主・フリーランスを対象としているので、「従業上の地位」は正規雇用者と役員を除外する。派遣社員・パート・アルバイトは可能性があるので残しておく。「政府統計の総合窓口(e-Stat)」で表示させた結果が次のとおり(表をクリックで拡大)。

合計は23aで25,550人、24pで18,200人、全体で43,750人となった。

これに対する採択状況だが、「文化芸術活動の継続支援事業」事務局ホームページの「新着状況」にある交付決定件数を合計してみる。23a・24pには舞踊・伝統芸能・大衆芸能・舞台スタッフも含まれるので、これらを合計する(第3回以前は消えているので「Internet Archive」(2020年8月29日時点)より)。職種によっては映画・アニメーションも含まれるが、ここでは割愛する。

  • 第1回交付決定  演劇5件+舞踊2件+伝統芸能2件+大衆芸能2件=11件
  • 第2回交付決定  演劇2件+大衆芸能3件=5件
  • 第3回交付決定  演劇11件+舞踊10件+伝統芸能3件+大衆芸能9件+舞台スタッフ4件=37件
  • 第4回交付決定  演劇27件+舞踊7件+伝統芸能3件+大衆芸能12件+舞台スタッフ8件=57件
  • 第5回交付決定  演劇168件+舞踊44件+伝統芸能17件+大衆芸能42件+舞台スタッフ32件=303件
  • 第6回交付決定  演劇194件+舞踊48件+伝統芸能26件+大衆芸能64件+舞台スタッフ36件=368件
  • 第7回交付決定  演劇287件+舞踊86件+伝統芸能32件+大衆芸能69件+舞台スタッフ63件=537件
  • 第8回交付決定  演劇487件+舞踊142件+伝統芸能63件+大衆芸能123件+舞台スタッフ77件=892件
  • 第9回交付決定  演劇841件+舞踊236件+伝統芸能114件+大衆芸能179件+舞台スタッフ108件=1,478件
  • 第10回交付決定 演劇548件+舞踊189件+伝統芸能86件+大衆芸能140件+舞台スタッフ79件=1,042件

以上の合計で4,730件となる。これは団体による申請も含んでいるので、個人に限るともっと少なくなる。

24pの人が不特定多数向けの公演をするとは限らないので、対象を23aの人に限っても、あと2万件(=2万人)程度の採択があっておかしくない計算だ。23aの個人事業主(雇人のある業主900人+雇人のない業主13,170人=14,070人)は明らかに対象と思われるので、少なくともあと1万件(=1万人)程度は採択されるべきだろう。これに音楽を始めとする他分野が加われば、文化庁が個人10万人を想定したのも理解出来る。本来はそれを目的とした事業だったのだ。

今回、制度設計の課題が多く、予算の多くが費消されないことが決定的になったが、具体的にどれくらいの対象者がいるかがわからなかったので、国勢調査の結果から全体像を推計してみた。

現在の募集案内に合致する申請が出来る人で、まだ申請していない人がいれば、9月30日締切の第3次募集に申請すべきだと思う。しかし、自己負担に耐えられない人、自己負担を相殺する事業を計画出来る状況にない人に、これ以上申請を強要すべきではない。それを強要すると、逆に不正な申請が発生してしまう恐れさえある。

文化庁も第3次募集から補助対象経費の基準を変更するなどの不公平はやめ、制度上の瑕疵を率直に認め、余った予算を組み替えて、補助金ではなく給付金として支援出来る制度を創設してほしい。コロナ禍の補正予算だからこそ、そうした柔軟な編成が認められるべきだ。一部には、この予算を余らせると今後の芸術文化予算が削られるという意見もあるが、それは目的と手段を取り違えている。予算編成の世界ではそうした側面もあるだろうが、それがすべてではないだろう。

ちなみに、文化庁ホームページの「応募状況」によると、第2次募集終了段階で団体による区分Bへの申請は、全分野合計で2,205件だった。団体で申請するところは、今年度の芸術文化振興基金にも申請していると思われるが、今年度の芸術創造普及活動の申請数が全分野合計で612件だったことを考えると、団体に関しては申請要件を満たすところはほぼ申請していると言っていいだろう。

日本芸術文化振興会「令和2年度芸術文化振興基金助成対象活動の決定について」

申請がないのは、あくまで個人なのだ。この事業で団体の条件は「構成員や関与する個人に報酬を支払う団体であること」とあり、きちんとした運営が求められる。団体に対しては、これ以上基準を緩くする必要はないと思う。