この記事は2019年6月に掲載されたものです。
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文化庁の補助金は法人限定でいいが、基金の助成金を法人限定にするとどういうことになりそうか。

カテゴリー: さくてき博多一本締め | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 高崎大志 です。

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 芸術文化振興基金の助成制度は、現在では任意団体であるふつうの劇団でも申請ができます。
 しかし、この制度を「法人でなければ申請できない」というように変えようとしている噂を聞きました。

 あくまで噂ですので、実際のところはわかりませんが、もしそうなった場合にどうなるのかということを考えてみたいと思います。
 あくまで、仮定の話としてご覧ください。

 結論から言えば、国内の演劇シーンを長期で見た時に、得策ではないと思われます。

 まず、この議論をするには、劇団にとっての法人化のメリットデメリットのバランスを考える必要があります。
 白か黒、0%か100%という話ではなく、どのくらいのバランスをとるのが適切かという議論が必要です。

1)「創造普及」の趣旨に合わない

 創造普及という言葉が示すものが何か、明確に定義されていないので、よくわからない部分はありますが、この言葉を普通に解釈すれば

「創造活動を行うことを国内に普及させる」

 あるいは

「創造活動を行うことの楽しさやその成果を広く国内に普及させる」

 というところでしょう。

 つまり、今、創造活動をおこなってない人が、創造活動をおこなうようにしていくという趣旨でしょう。

 この意味で言えば、東京はすでに国内で圧倒的な水準にあると言えます。

 その基金の助成の採択を受けた活動団体が、法人ばかりで一般的な劇団がないとしたらどうなるでしょう。

「こういう創造活動は、法人化されたプロの団体がやるものであって、自分たちがやることではない。」というところに近い印象を持つのではないでしょうか。

 法人化に限定すると、仕事の多い東京の採択率が更に上がりそうです。
これでは、中央一極集中を加速することになります。法人でないと申請できないとなると「創造普及」という看板とは離れたものになるように思われます。

2)不自然あるいは無理な法人化を促進し、団体の弱体化を招く。

 作品を作る芸術団体が法人化しようとするのはどういう時か考えてみたいと思います。 ここは、いろいろ議論があると思いますが、以下のようなところかと思います。

「少なくとも2,3人くらいは、継続的に生計が成り立つようにしたい。そしてそれがある程度、現実的になってきている時」

 組織の年商で言うと1000万超えるくらいのところかと思います。それ以下で、法人化することにはほとんどメリットがなく、法人化に伴う諸手続きのコストが固定化します。

 文化庁補助金は、平均の額が800万円になっており、数字でいうと法人化の目安の数字に迫っており、法人化する要件と近いところにあるといえます。
 額も高額ですし、文化庁補助金はほぼ税金でしょうから、一定以上の組織の堅牢性を求めるという点で、法人化を条件とするのは自然なことです。

 しかし、芸術文化振興基金の方はどうでしょう。

 基金の平均助成額は180万円です。
 ひとりの人間が、喰っていくにもかなり厳しい額です。

 また、基金の助成には、民間からの寄付も入っており100%税金というわけでもありません。

 しかし、基金の助成の申請に法人格が必須となれば、そのために法人化するところも出てくるでしょう。
 そうなると、法人維持のための事務に、創造団体のリソースが割かれることになります。
 年商が1000万円以上あるような団体ならば、まだいいでしょうが、それ未満の団体では、その負荷のために、活動のバランスを崩すことも十分に想定されます。
 これは誤った政策誘導になるのではないかと思います。

3)基金の助成のあり方と法人は完全には馴染みにくい

 基金の助成は、文化庁補助金と違って、その本質は赤字補てんです。公演事業は原則として黒字にすることができません。

 そして、一般的に法人というものは、長期的な存続を前提とするために、赤字を出すことが許されない存在です。
 基金の助成のあり方と法人には馴染みにくい部分があります。

 公的な団体の場合は、自治体などから定期的な補助金等があり、トータルで黒字になるようなシステムをもつ場合が多いですから、そのような場合は例外でしょう。

 公演事業で黒字を出せないとしても、創造活動をやっていきたいという思いを持った任意団体が、現在の基金の助成をうける団体の主力でしょう。そういういった団体が制度変更によって切り捨てられることになります。

 そして、そこにこそ日本の演劇シーンの多様性が含まれています。

 日本の演劇シーンの多様性は、世界に冠たるものであり、それを支えてきたのは、若い任意団体による創造活動です。

 たとえば、今、国内を代表するような法人化された創造活動団体でも、旗揚げから5年10年は、任意団体であったでしょう。そして、任意団体である時の活動が評価され、一生の仕事にしようと決めて法人化に至ったという例は、少なくないのではないでしょうか。
 そして、その任意団体の時に、現在の基金助成を受けた団体もあるはずです。

 基金助成の法人化要件は、このような団体のための土壌を破棄してしまうという点においても危惧するところです。

4)文化庁補助金やその他の助成制度とのバランスで見るべき

 現在、国政府系の助成制度として、文化庁補助金と基金が二大制度であるといって差し支えないでしょう。

 その平均額や総学は概ね以下のようなところです。

         平均額    総額  法人化
 文化庁補助金  800万円   7〜10億 必須
 基金助成    180万円   3億   不要

 全体の予算で見れば、すでに法人化必須の助成額のほうがはるかに大きいわけです。
 そこで、法人化不要の基金の助成を法人限定にすることに、どのようなメリットがあるのか、私にはよく理解できません。
 今でも、法人に偏った全体像が、さらに法人に傾きます。

 基金助成は100%の公金ではなく、民間からの出捐金も入っており、文化庁補助金ほどの堅牢性を非助成団体に求める必要はありません。そこは十分に説明がつけられます。ここにもバランスを持った考え方が必要です。

 そして、助成制度というのは表現団体のステップアップの契機として、他の助成制度もふくめバランスの取れたハードルの高さに設定されているべきです。
 両助成に加え、自治体の助成も加えるならば、今の国内の助成制度は以下のような枠組みができているわけです。

         平均額    総額  法人化 
 文化庁補助金  800万円   7〜10億 必須 
 基金助成    180万円   3億   不要  
 自治体の助成  10〜50万円 1〜2億  不要  
(自治体の助成は推測が入っています)

 マクロで見たときに、制度としては一定のバランスが取れた形であろうと思います。
(補助金と基金の助成額が均等に近くなれば、よりバランスがいいと思います)

 旗揚げしてしばらくは、地域の助成を採択し、そこで力をつけて、他地域からも認識される存在となり、やがて基金の助成を受ける。
 さらに、努力して全国的にも認知され、これを一生の仕事にしようと決めて、法人化し文化庁補助金を受ける。

 このストーリーを壊してはいけません。

 なにごとにも断絶や切れ目のない制度設計が求められます。そしてそのためには、自分たちの助成制度だけで考えるのではなく、国内の助成制度の実態を広く知ることが必要だと思います。

 文化庁や日本芸術文化振興会は、そのような広い視野、長期的な展望、そして一時的な風潮に流されない見識を持っていてほしいと思います。

【芸術文化基金】助成手続きをより煩雑化することは、慎重の上にも慎重に
 http://fringe.jp/blog/archives/2018/07/29133210.html