この記事は2019年3月に掲載されたものです。
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その企画に「××初」と銘打つ前に、本当に初めてなのかネットで広く呼び掛けて検証してもらえばいい

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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演劇公演の宣伝文で、「××初」と銘打たれていることがある。本当にそうだろうかと思い、調べてみると前例があったケースを、この1年間で複数体験した。普通の間違いならスルーするが、明らかに歴史的事実と反する場合は、主催者に連絡したり、ネット上で誤りを指摘することにしている。そうでないと、前例自体がなかったことになってしまい、先達の記録が失われてしまうからだ。保存出来ない舞台芸術だが、その記録までなかったことにする行為を私は許せない。演劇人は著作権侵害には敏感だが、こうした公演自体の名誉を棄損する行為にも、もっと注意を払うべきだと思う。

それが「××初」かどうかを調べるのは、けっこう難しい。ネットで検索してもヒットしないことが多い。物事があったことは証明出来るが、なかったことを証明するのが難しいのと同じだ。検索でヒットしなかったからといって、前例がないとは言い切れない。検索が得意な方は痛感されていると思うが、ネットというのは最近の出来事は非常に詳しく、古いこともそれなりに情報が蓄積されているが、その中間が希薄だ。小劇場演劇の分野だと、1980年代~90年代前半のことがほとんどわからないと思う。紙資料や個人の記憶に頼るしかない。

「××初」と銘打ちたいのなら、企画の初期からネット上で「実はこういうことを考えていますが、これを『××初』と呼んで問題ないでしょうか」と広く呼び掛け、寄ってたかって調べてもらえばいい。そんな親切な人はいないって? いるよ、私がいる。先日も頼まれてもいないのに、綾門優季氏(青年団リンク キュイ主宰)が日本大学芸術学部第2種奨学金の具体例を知りたがっていたので、調べてリプライした。私はこういうことが好きなのだ。私以外にも、演劇公演の歴史なら親身になって調べてくれる人がそれなりにいると思う。

最初から企画を明かしたくないって? そんな狭い了見だから動員が伸びないのだ。それが本当に「××初」なのかを確認しようとする過程で、演劇ファンの話題になって注目を集めるはず。これ自体が一つのプロモーションであり、宣伝戦略なのだ。費用をかけずにクチコミで広がっていくなら、これほどありがたい話はないだろう。誰もやったことのない企画なら、構想段階からネットで拡散し、「××初」なのかを検証してもらえばいい。本当に「××初」なら、そこからクラウドファンディングにつなげていく手もある。

「fringe forum」には「質問掲示板」を用意している。この掲示板こそ、「××初」かどうかを尋ねるのに最適だと思う。回答がなければ私も調べるし、わからなければ拡散を手助けする。「××初」かどうかを検証することは、埋もれていた過去の公演に再びスポットを当てることにもなり、先達をリスペクトするきっかけになるだろう。保存出来ない演劇に携わる者として、「××初」を銘打ちたいのならネットで事前検証してほしい。