演劇の創客について考える/(21)ふるさと納税ブームを舞台芸術への寄付文化定着につなげられないか――返礼品として公演へ招待することはダメなのか

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

いま、世の中ではふるさと納税が大変なブームです。これまで確定申告に興味のなかったサラリーマンでも、ふるさと納税は普通に利用しています。自分が好きな自治体に送った金額とほぼ同額が所得税・住民税から戻り、様々な返礼品がもらえるわけですから、これを利用しない手はないと思われているのでしょう。都市部の住民税が流出する現象も顕著になり、逆にネガティブキャンペーンを始める自治体もあるほどです。

ふるさと納税は「納税」という名前が付いていますが、実際は自治体への「寄付」です。寄付をした自治体から「寄附金受領証明書」をもらい、それを使って確定申告することで「寄附金控除」が適用され、所得税の還付・住民税の減額が受けられます。ブームで確定申告の事務処理が増大することを防ぐため、確定申告を不要にし、住民税から全額控除する「ふるさと納税ワンストップ特例制度」まで設けられました。

長年、日本では個人による寄付文化は根付かないと言われてきましたが、寄付税制を整備し、ネットを使った簡易な手続きや返礼品などの条件が揃えば、そんな定説は簡単に覆ることが証明されたのではないでしょうか。納税者自身が税金の使途を指定出来るイメージがあるのも大きいと思います。好きな自治体を選べ、その使途をある程度指定出来ることが、寄付する側の満足感・納得感につながります。

ここまで読んで、このブームを自治体ではなく、舞台芸術への寄付につなげられないかと思いませんか。過剰な返礼品の是非は別として、舞台芸術への寄付金額が「寄附金控除」で戻り、さらに返礼品がもらえるのなら、日本人も舞台芸術へもっと寄付するはずです。返礼品が公演への招待だとしたら、語弊があるかも知れませんが、「寄付することで公演が観られる」ことになります。

舞台芸術への寄付と言えば、日本ではクラウドファンディングが主流です。これは一般の芸術文化団体への寄付になるため、「寄附金控除」の対象にはなりません。形式的には、モノやサービスを購入している形になります。特典に招待券を付けているケースが多く、実質的には様々な特典が付いたチケットの先行発売に近いと思います。もちろん、そのプロジェクトを支援したいという思いがあってこそですが、寄付税制の観点から見ると、クラウドファンディングは物品の販売と同じだということを理解してください。

「寄附金控除」を受けられる寄付先は、国、自治体、特定公益増進法人、認定NPO法人などですが、こうした特別な法人格を持つ芸術文化団体は限られます。そこで考えられるのが、公益法人を経由した寄付です。最終的な寄付先を指定した上で寄付金を受け付けている代表例として、公益社団法人企業メセナ協議会があります。同協議会の公認プロジェクトになるか助成認定されると、同協議会への寄付金を原資にして助成が受けられます。クラウドファンディングと同様に、寄付する側が寄付したい先をピンポイントで選べ、しかもクラウドファンディングにはない「寄附金控除」が受けられます。

寄付先は「かるふぁん!」というポータルサイトから選べます。助成認定制度の審査が年4回だったり、登録するだけで手数料(10,000円)がかかるため、演劇分野の登録は多くありませんが、「寄附金控除」を推進する上で、このサイトがもっと活発に利用されていくべきだと思います。先日まではTOHOKU Roots Project『星の祭に吹く風』が登録されており、私も些少ながら寄付させていただきました。

ここで課題になるのが、ふるさと納税に比べて公益法人への寄付は控除率が低いこと、完全な寄付型なので返礼品の記載がないことです。寄付金額から2,000円を引いた100%が還付・減額されるふるさと納税に比べ、公益法人への寄付は40%です。例えば42,000円を寄付した場合、前者が40,000円戻るのに比べ、後者は16,000円しか戻りません。この差は大きいと思います。返礼品も、寄付に対して経済的利益が発生することは矛盾します。総務省でも、ふるさと納税の返礼品には対価を表示せず、返礼割合を3割以下にすることや、経済的利益は一時所得に該当することなどを通知しています。

国税庁ホームページ「寄附金を支出したとき」
総務省ホームページ「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」

これらを踏まえて考えると、次の2点が今後の道筋ではないかと思います。

  1. 公益法人を経由した寄付金の控除率をふるさと納税に近づけること。
  2. 返礼品のルールを明確にすることで、公演の招待が経済的利益に該当しないようにすること。

公益法人への「寄附金控除」がふるさと納税と同じ100%になれば、2,000円負担するだけで全額戻ります。年収400万円の独身または共働きの場合、「寄附金控除」の上限は約42,000円です。21,000円を年2回寄付すれば、返礼品として3割の6,300円相当の公演に2回招待可能になります。40,000円は還付・減額されて戻ります。税金として支払うか、寄付という形を取るかの違いだけで、2,000円でそれなりのクオリティの公演を年2回観ることが出来るわけです。全く演劇を観ない人が年2回でも劇場に足を運ぶようになれば、日本の舞台芸術を巡る環境は大きく変わるのではないでしょうか。その障壁になっているチケット代が、「寄附金控除」の返礼品という方法で取り除けるのではないかと考えます。

総務省|ふるさと納税ポータルサイト「税金の控除について」

チケット自体を返礼品にすると換金性がありますが、寄付した本人自身が内容を確認するために来場することは、むしろ当然のことではないかと思います。内容がわからないと、寄付を継続するかどうかの判断も出来ないわけで、本人にそのまま入場していただく(=招待する)ことは経済的利益に当たらないのではないでしょうか。総務省の通知に沿って、チケット料金が寄付金額の3割以下なら社会通念上も問題ないはずです。この解釈が認められないのなら、ふるさと納税の返礼品は全部アウトではないでしょうか。

「かるふぁん!」経由の「寄附金控除」は現在40%ですが、寄付する立場から言うと、60%の金額でクラウドファンディングと同額の支援が出来るわけです。いまでも返礼品として本人を招待すれば、普段から舞台芸術を応援している人にとって充分魅力のある寄付先だと感じます。

現在は寄付する側が寄付金額を自由に決められる設定ですが、チケット料金が3割を超えないように下限額を設定した上で、寄付した人が希望する場合は当該団体から招待の連絡をする程度は明記してもいいのではないでしょうか。クラウドファンディングのような金額に応じた特典はありませんが、そもそも寄付に過剰な特典は不要でしょう。招待さえあれば、寄付をしたい気持ちが生まれ、寄付される側も結果的にチケット料金以上の助成を受けられるので、双方満足するのではないかと思います。前述のとおり、寄付した本人の招待さえダメと言うのなら、ふるさと納税の返礼品は全部アウトだと思います。

本来、寄付は見返りを求めないものですし、これはと思う芸術文化団体があれば、純粋に応援したいと思います。しかし、ふるさと納税がこれだけブームになり、その大きな要因が「寄附金控除」と返礼品にあるのは事実なので、その流れで「寄附金控除」と招待を組み合わせ、「寄付をすることで公演を観に行く」動きをつくれないかと思いました。「寄附金控除」を恣意的に使ったチケット販売と認識されるのは避けたいので、チケット料金の下限はそれなりに高くしてもいいと思います。高くしても、「かるふぁん!」なら実質負担はその60%です。今後控除率が高まったり、チケット料金の返礼割合を高くしてもよいのなら、さらに負担は下がります。

チケット代を安くする画期的解決策としては、平田オリザ氏が著書『芸術立国論』(2001年、集英社新書)で「芸術保険制度」(健康保険と同様にチケット代を本人3割負担にする制度)を提唱しました。そうした国の制度を使った取り組みとして、「寄附金控除」の返礼品という考え方があるのではないかと思いました。公益法人の控除率を高めるのは難しいかも知れませんが、自治体がふるさと納税の返礼品に公共ホールの招待券を入れることならすぐに可能でしょう。*1 ふるさと納税ブームで「寄附金控除」の理解が高まっているいまこそ、舞台芸術への寄付文化定着につなげていくべきではないでしょうか。

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