この記事は2018年5月に掲載されたものです。
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『シアターアーツ』「2017AICT会員アンケート」、私のベスト5は『ちょっと、まってください』『人間の条件』『Lullaby』『心中天の網島―2017リクリエーション版―』『アンネの日』

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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5月20日付で発行された、AICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』(晩成書房)62号掲載の「2017AICT会員アンケート」に参加させていただいた。

日本劇団協議会機関誌『join』90号特集「私が選ぶベストワン2017」と重複する部分もあるが、このアンケートならではの項目もあり、考えるのが楽しい。

■ベスト舞台(5作品まで、順位あり)
(1) ナイロン100℃『ちょっと、まってください』(作・演出=ケラリーノ・サンドロヴィッチ)
(2) 劇作家女子会。『人間の条件』(作=坂本鈴・オノマリコ・黒川陽子・モスクワカヌ、演出=赤澤ムック)
(3) キコ/qui-co.『Lullaby』(作・演出=小栗剛)
(4) 木ノ下歌舞伎『心中天の網島―2017リクリエーション版―』(作=近松門左衛門、監修・補綴=木ノ下裕一、演出・作詞・音楽=糸井幸之介)
(5) 風琴工房『アンネの日』(作・演出=詩森ろば)

■ベストアーティスト(3名まで)
○赤澤ムック(劇作家・演出家・俳優/黒色綺譚カナリア派)
○横山拓也(劇作家・演出家/iaku)
○古舘寛治(俳優/青年団、サンプル)

■実験的・先駆的作品
フェスティバル/トーキョー+mamagoto『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』(作・演出=柴幸男)

■実験的・先駆的作品アーティスト
糸井幸之介(劇作家・演出家・音楽家/FUKAIPRODUCE羽衣)

■優秀新人アーティスト
根本宗子(劇作家・演出家・俳優/月刊「根本宗子」)

■コメント
 芸術とは、アーティストがどれだけ矜恃を持って自分の表現を問うかに尽きると思う。同じ時代に生きる者として、その使命を最大限に発揮したのが、ケラリーノ・サンドロヴィッチの新作だったのではないか。不条理演劇へのオマージュの形を取りながら、いまの世の中に『ちょっと、まってください』と明確なメッセージを突き付けた。題名自体が警鐘となる覚悟が伝わった。
 『人間の条件』は四名の劇作家がミュージカルで人間の本質を描いた力作。小劇場演劇の音楽劇として近年の集大成とも言える作品で、それをまとめ上げた演出の赤澤ムックを高く評価したい。
 小栗剛によるキコ/qui-co.の詩的な世界観と、その主演女優を務める百花亜希のベストマッチは、私にとって大きな収穫だった。マスコミのアンテナにまだかからない、奇跡のような舞台に出会えることが、小劇場に通う醍醐味なのだと思う。

■年間の観劇本数
約60本

なお、AICT会員全体での「劇評家が選ぶ2017ベストステージ」は、二兎社『ザ・空気』(作・演出=永井愛)が2位を大きく引き離しての1位だった。

他の会員によるコメントで印象に残ったもの。九鬼葉子氏「『関西演劇は元気がない』という短絡的な言葉を使う人が未だにいる。二〇年も前からだ。聞き飽きた。もう、やめにしないか。才能は生まれている」。28年ぶりに東京に戻った星野明彦氏「料金の高額化と平日昼公演の多さに、勤労者の多くは対象外なのかと複雑な思いになった」。丸田真悟氏「気がかりなのは劇作家が消費対象にされていないかということ。例えば中津留章仁、あるいは長田育代や詩森ろば、瀬戸山美咲、古川健など。これら力のある旬の作家たちに群がる劇団。この状況が著しい」。丸田氏の懸念は、本誌の年間回顧座談会や他誌でも取り上げられている。

(参考)
『シアターアーツ』「2016AICT会員アンケート」、私のベスト5は『ロクな死にかた』『演劇』『治天ノ君』『来てけつかるべき新世界』『ニッポン・サポート・センター』