この記事は2010年7月に掲載されたものです。
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高校演劇がなんでもありなら、こういうときこそ審査対象に

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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口蹄疫の感染拡大防止で開催が危ぶまれていた第34回全国高等学校総合文化祭は、予定どおり宮崎県全域で8月1日~5日に開催されることになった。その一方で、北海道高校文化連盟十勝支部が地元畜産業への影響を懸念し、同支部から参加予定だった7校91名の辞退を決定した。十勝は前回2000年に口蹄疫が発生したとき、宮崎と共に感染が確認された地域で、基幹産業である畜産業への思いは、都市部に住む人間の想像を遥かに超えたものだろう。様々な意見があるだろうが、そこで暮らす方々の気持ちを尊重しなければならないと思う。

辞退した中には、演劇部門北海道代表の鹿追高等学校が含まれていた。鐘下辰男氏(演劇企画集団THE・ガジラ主宰)の出身地として知られる鹿追町だ。上演作品は井出英次顧問創作の『平成21年度北海道然別高等学校演劇部十勝支部演劇発表大会参加作品』。これは仮題でもなんでもなく、本番中に演劇部員が食中毒になり、残った2人の部員がなんとか上演するショーマストゴーオン物らしい。創部3年目の演劇同好会で全国大会初進出決定という快挙だった。

鹿追めーる(十勝毎日新聞)「鹿追・帯柏葉が最優秀 高文連十勝支部演劇大会 11月に全道出場」
http://www.tokachimail.com/shikaoi/091007index.html

こういうときに辞退する側の思いはいかばかりか。北見北斗高等学校の新井繁氏が主宰する「じゃんの部屋」演劇用掲示板には、井出氏自身のコメント、周辺の顧問たちの励ましが綴られている。そしてせめてもの代替案として、7月26日に帯広市民文化ホール小ホールを抑えて自主公演を行ない、その録画映像を本来の上演予定だった8月3日の3枠目に上映してもらうという。撮影機材は家庭用のハイビジョンカメラしかないようだが、こんなときこそ「青春舞台」を放送しているNHKに協力を仰げないかという意見も出ていて、全くそのとおりだなと思う。NHK帯広は動かないのか。

Doshin web(北海道新聞)「鹿追高演劇同好会 帯広で『集大成』公演へ」
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/chiiki3/241291.html

井出氏は「審査の対象にはならないだろう」と語っているが、以前このブログでも議論したように、高校演劇は〈なんでもありの異種格闘技〉だったはず。ならばこういう場合のビデオ上演も審査対象にしたらいいのではないか。08年に「Shizuoka春の芸術祭」で、レバノンのラビァ・ムルエ一人芝居『消された官僚を探して』が政情不安で来日出来なくなり、ネット中継で上演した例もある。

演劇が持つ魅力には、作品そのものだけでなく、こうした様々な演劇的発想も含まれると私は思う。その意味で、鹿追高等学校は26日の自主公演から全国大会に参加していると言える。ライブで宮崎の舞台に立てないことはさぞ悔しいだろうが、スクリーンに映された姿はきっと輝いているはずだ。