ネビュラエクストラサポート(Next)が、6月20日~8月8日に上演されるNODA・MAP『ザ・キャラクター』へのチラシ折込代行で、主催者側(この場合はNODA・MAP)が折り込む10団体を事前に選ぶ「主催者セレクト方式」を試験的に実施している。
Nextでは、これまで折込団体数を先着順で制限することはあったが、内容での選別は「折り込み機会の公平性を維持する」観点から行なっていない。制作者から「チラシの宣伝効果を高めるため従来の方法を見直すべき」という声が広がっていることを理由にしているが、売上に影響を与えかねない委託団体の選別は、Nextにとっても英断と言えるだろう。
厚みを増すチラシ束見直しの動きは、関西から始まった。2005年に大阪を代表する小劇場の一つ、HEP HALLが劇場主導による折り込みを廃止。06年にはAI・HALLが高嶺格パフォーマンス公演に合わせ、チラシ束廃止を呼び掛けるチラシを配布、劇場スタッフのミーティング議事録も公開した。こうした動きを受け、fringeではkyo.designworksと共催で「吉祥寺ちらし会議」を06年に開催。ここから東京でもチラシ束に関する問題意識が広がっていった。
「吉祥寺ちらし会議」を終えて私が考えたことは、チラシ束自体の是非よりも、チラシしか宣伝媒体がないかのような小劇場の発想そのものがチープだということだ。費用の問題ではなく、チラシ束以外の方法を開拓しようとしない制作者そのものが思考停止に陥っていると感じた。猫も杓子も「とりあえず折り込んでおけ」というような態度が、小劇場を狭い身内の世界にしているように思う。チラシ束がある程度厚くなるのは構わないが、それは意味のある厚さであってほしいと思う。
制作者は、そのチラシが観客にとって本当に必要なのかをまず見つめるべきだ。いますぐ出来ることとして、私はチラシ束に公演チラシしか入れないことを提言したい。オーディション、ワークショップ、劇団員、演劇講座などの募集、印刷業者など関係者向けの宣伝はチラシ束に入れず、置きチラシだけにするのだ。置きチラシのスペースがない劇場もあるだろうが、その場合は別に置かなくてもいい。そもそも関係者がターゲットなのだから、ネットに書いたり、各カンパニーにDMを送ったり、稽古場施設に置きチラシするほうが効果的だろう。観客全員にチラシを折り込む必要はないはずだ。
小劇場はつくり手と観客の距離が近いが、だからといって観客全員が芝居をやりたいと思っているわけではない。舞台の魅力を知っている演劇人は、つい観客全員をターゲットと考えがちだが、そこは分けて考えるべきである。本当に芝居をやりたいと思っている人は、自分から情報を探しているはずだから、ネットや置きチラシで充分なはずだ。市民劇の募集などで、裏が履歴書になっているようなチラシも見かけるが、そうやって無理やり応募者の数を増やすより、本当に意欲のある人を集めるほうが、その後の定着にもつながっていくのではないだろうか。
こうした募集チラシが全体に占める割合は少ないので、これらがなくなったからといってチラシ束が薄くなるわけではない。けれど、チラシ束が純粋に観客向けの情報だけになる意味は大きいと思う。一人一人の制作者の裁量で、今日から出来ることである。
誤解のないように書いておくが、チラシそのものをやめろと言っているのではない。意味のあるチラシで、観客が持ち帰りたくなるようなチラシ束を目指すべきと言っているのだ。下記「30種類の仮チラシ」も再読していただきたい。
(参考)
30種類の仮チラシ
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「チラシ束への具体的な提言」全3回
- チラシ束に公演チラシしか入れないことから始めよう(本記事)
- 演劇祭なら単独チラシはつくらず、統一チラシだけにしよう
- チラシ束への折込順を根本から見直そう