観客にとってチラシ束を魅力的にする方法第2弾として、演劇祭では参加団体が独自にチラシをつくらず、事務局が作成する統一チラシだけにすることを提言したい。
本番まで実態のない演劇公演にとって、チラシはアイデンティティをカンパニーに与える力があり、それだけにこだわりを見せる主宰も多い。参加団体が独自のデザインで単独チラシをつくりたい気持ちもわかるが、その費用を持ち寄って統一チラシを作成したほうが、演劇祭としての一体感が強まるし、観客にとっても1種類のチラシで全情報を得ることが出来る。
A3二つ折り程度では全情報は収まらないだろうから、判型はポスターを折り畳んだものや、冊子状のものになるだろう。チラシよりリーフレットに近いかも知れないが、個別にチラシを刷っていた費用を合わせれば、逆に低予算で実現すると思う。実力あるグラフィックデザイナーを起用し、チラシのクオリティを高めるチャンスでもある。
チラシ束を変えていく方法としては、それに代わるシーズンリーフレットを劇場ごとに作成したり、地域全体で「PLAYBILL」のようなフリーペーパーを発行することが考えられるが、いずれも貸館の多い日本の小劇場界では実現が困難だ。これに対し演劇祭は事務局が参加団体を把握しているわけだから、全体を紹介する宣材はつくりやすい。始めるなら、まずは演劇祭の統一チラシからだろう。
統一チラシになると、当然ながら個別の参加団体が勝手にデザインすることは出来ず、決められたフォーマットに従って情報を掲載することになる。物足りないと感じる主宰もいるかも知れないが、統一チラシと単独チラシが別々に折り込まれているチラシ束に出会うと、互いのパワーを結集して、もっとよい統一チラシが出来たのではないかと感じる。
どんな演劇祭にも、全体を通したコンセプトや参加団体のセレクション、共通のチケットシステムや付帯イベントなどがあるだろう。それらを総合的に伝え、贔屓の団体をきっかけに、普段目にしない団体にも足を運んでもらいたい。それには統一チラシこそが重要であり、事務局も参加団体ももっと統一チラシに注力すべきだと思う。統一チラシに注目させるため、意図的に単独チラシをやめる戦術があっていいはずだ。
私が携わった例として、2006年に東京の6カンパニーが京都で開催した「TOKYOSCAPE」がある。この演劇祭は単独チラシ配布を行なわず、参加団体が費用按分して統一チラシのみを作成した(東京公演がある場合に限り、東京分の単独チラシを作成した)。参加団体と何度も打ち合わせを重ね、単独チラシ以上のステップを踏んで作成したチラシである。
A2判を10面に分割、じゃばらに折り畳むことでリーフレット状に読めるようにし、6カンパニーを1面ずつ使って紹介。フォーマットは撮り下ろしのイメージ写真、舞台写真×2点、公演データとクレジット、キャッチコピーと物語、推薦文、団体紹介とし、他面の情報と合わせて単独チラシと遜色ない情報量にした。
フェスティバルディレクターを務めた詩森ろば氏(風琴工房主宰)からのセレクション理由、ハシゴ観劇に役立つ上演時間付きタイムテーブルや会場間の移動案内など、私が統一チラシに求める要素はすべて盛り込んだ。折り畳んでもかさばらないよう、紙の厚みにもこだわった。裏面はポスターになっている。統一チラシを考える参考にしていただきたい(アートディレクター/京、宣伝写真/山本尚明)。
1 折り畳んだ状態
2 広げた状態(A2判)
3 タイムテーブル(部分)
4 アクセスマップ(部分)
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「チラシ束への具体的な提言」全3回
- チラシ束に公演チラシしか入れないことから始めよう
- 演劇祭なら単独チラシはつくらず、統一チラシだけにしよう(本記事)
- チラシ束への折込順を根本から見直そう