その4:評価は公演初日を基準として日程後半はリミットを設ける
かつて一世を風靡した週刊演劇ニュースレター「初日通信」。1984年~96年に毎週発行された郵送の劇評で、現在のネットによるレビュー文化の基礎を築いた存在でした。その名のとおり、「初日に観て、楽日に間に合う」をキャッチフレーズに、自腹(招待は拒否されていたはず)で観劇して木曜日に発行されていました。すべて初日に観劇するのは物理的に不可能で、公演期間が2週間ある場合は前半のどこかで観る感じでしたが、公演期間が1週間を切る場合は初日か2日目に観て木曜発行号に載せ(首都圏なら土曜日には届く)、日曜の楽日に間に合うことを目指されていたのだと思います。
演劇の世界では、公演が始まっても思うような出来にならない場合に「初日が開かない」と称し、日程が残りわずかになって「初日が開いた」などと公言する関係者もいます。これは公演前半に来場した観客に失礼極まりないと私は思いますし、本当にそう感じるのなら、前半の観客にキャッシュバックすべきだと思います。演劇はナマモノですから、公演が始まっても改良していくことはあるでしょうし、最後の1ステージまで演出を重ねることもあるでしょう。しかし、それは初日に一定の完成度に達しているのが大前提です。
初日と楽日の印象が全く別物になっている作品もあるようですが、たとえ楽日の完成度がどんなに高まったとしても、私は公演の評価は初日ですべきだと思います。プロデューサーとしても観客としても、初日の出来がすべてじゃないかと思います。後半の完成度が高まった回で評価してほしいというのは、つくり手の甘えです。
初日や公演前半の評価が後半の動員に影響を与えるという本来の姿を促進させるため、レビューサイトとしてもなんらかの工夫があるのではないかと考えていました。例えば★★★★が満点だとしたら、公演後半の観劇の場合は★★★までしか付けられないよう、プログラムでリミットをかけるのはどうでしょう。後半はどんなに出来がよくても、★★★までしか選べないようにするのです。公演期間と観劇日があれば、後半を自動計算してリミットをかけることは可能でしょう。
匿名の短いレビューの存在意義というのは、いま上演している公演を観るべきかどうかの情報提供に尽きます。楽日を観て公演終了後に書かれたものはあまり意味がありません。公演終了後に感想を伝えたいのなら、時間はたっぷりあるのですから、それは別に長文の劇評を執筆すればいいのではないでしょうか。公演前半に★★★★が付いている作品こそ、真の注目作だと思います。
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「私ならレビューサイトをこうする」全5回
- 私ならレビューサイトをこうする(1)
- 私ならレビューサイトをこうする(2)
- 私ならレビューサイトをこうする(3)
- 私ならレビューサイトをこうする(4)(本記事)
- 私ならレビューサイトをこうする(5)
興味深く拝読しております。
公演後半に近くなるほど完成度が増して行くのは自然なことですよね。
例えば、東京公演の後に多地域公演がある作品についてはどのようにお考えでしょうか?
(それぞれの地域の公演後半について全て、★の数を制限するのか、
それとも最終公演地の後半についてのみ、制限するのか)
巡演の場合、プログラムでそこまで制御するのは難しいと思いますが、可能なら巡演先では最初からリミットがかかっているほうがよいと考えます。巡演先では満点は付けられないということです。
ある程度のステージ数を終えてからツアーに出るわけですから、巡演先は初日からそれなりの出来になって当然だと思います。