その5:本格的劇評は複数筆者により比較出来る形で実名掲載する
レビューサイトは匿名・ハンドルネームの短いレビューだけを掲載すればいいというものではありません。当然、長文で読み応えのあるレビューも掲載されるべきでしょう。これは実名で書いてほしいし、同一作品に対して必ず複数の劇評が対比される形で掲載してほしい。批評家から作品への一方通行ではなく、批評家同士も絶えず相互批判にさらされてほしいと思います。提言の締めくくりとして、そのことに触れておきます。
私がこれまで目にしてきた劇評のスタイルで、最も心を動かされた実例をご紹介します。ドイツ・ベルリンの情報誌『tip』(ティップ)、日本で言えば『ぴあ』に相当するものですが、この演劇ページを大阪外国語大学の市川明教授(ドイツ文学・演劇)が『じゃむち』18号(1995年、当時は助教授)で取り上げたもので、まずは画像をご覧ください。『じゃむち』18号(1995年8月号)掲載写真を加工して転載させていただきます。
これは『tip』の演劇評価一覧表で、「8/95」とあるのは95年8号の意味です。隔週刊なので、8月ではなく春に上演された作品への評価になります。本格的な劇評欄以外に、劇評家10名+編集部によるこうしたページがあり、映画ページも同じスタイルだそうです。
印の見方ですが、●●●=とびきりすばらしい、傑出している/●●=一見の価値あり、おすすめ品/●=まずまず/○●=評価はわかれる、評価しがたい/○=面白くない/○○=ひどい、腹立たしいの6段階で、●を+1、○を-1で計算し、その合計順に掲載しているそうです。
画像を見ると、同一作品に最高の●●●と最低の○○が付く場合もあり、芸術への評価はこうでなきゃと思います。そして最も感銘を受けるのは、10名の批評家たちが堂々と顔写真を並べていることで、たとえ厳しい評価をされても、こういう誌面なら納得いくと私は思いました。すぐに『じゃむち』もこうしましょうと提案しましたが、採点することへの拒否反応もあり、同一作品に複数の劇評を載せることしか実現しませんでした。
日本でも、映画なら例えば『週刊文春』の「シネマチャート」が5名の採点で毎週2本を取り上げています。五つ星でかなり評が分かれ、私も長年読んでいますが、満票になったことは数回しかないと思います。北野武監督作品のときは、おすぎ氏が×印を付けて「ノーコメント」としていたのも印象的でした。そういう天敵同士の反応も含めて、評価だと思います。演劇では、かつて情報誌『シティロード』が来月観る作品を予告した上で、複数筆者による批評を掲載していました。せめてあの形が出来ないかと思うのですが……。
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「私ならレビューサイトをこうする」全5回
- 私ならレビューサイトをこうする(1)
- 私ならレビューサイトをこうする(2)
- 私ならレビューサイトをこうする(3)
- 私ならレビューサイトをこうする(4)
- 私ならレビューサイトをこうする(5)(本記事)