この記事は2004年5月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。



『いろは四谷怪談』が教えてくれた

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

Pocket

花組芝居の代表作『いろは四谷怪談』が10年ぶりに再演されています。実はこれ、私の観劇史に残る記念すべき作品なのです。(以下、ネタバレあり)

過去に1987年、90年、93年、94年と上演されていますが、私が観たのは90年の大阪公演(近鉄小劇場)。月~木の平日4ステージという、ちょっともったいない日程だったのですが、初日のチケットを押さえていた私はその魅力に取り付かれ、残り3日間も当日券で通い詰めてしまったのです。

90年版は東組・西組というダブルキャストが、隔日に組まれていました。2日目は別のキャスティングも観たいという気持ちだったのが、劇中歌が頭の中で一日中鳴り響いている状態になり、3日目からは身体が自然と劇場に向いてしまったのを覚えています。本当にツボにはまってしまったのです。

篠井英介氏と深沢敦氏の退団後1本目、しかも篠井氏で人気を博した作品の再演だけに、危機感が緊張感あふれる舞台をもたらしたのでしょう。お気楽エンタテインメントと思われがちな作品ですが、『四谷怪談』『仮名手本忠臣蔵』という誰もが知っている古典を換骨奪胎し、(少なくとも90年版は)日本人の歳時記感覚をパロディにしてしまう多重構造のどんでん返しを持つ、傑作中の傑作でした。

当時の私は制作者ではなく、純粋に観客の立場だったのですが、同じ作品を複数回観ることには否定的で、そんなカネと時間があるなら、別の作品に回したいと考えていました。それが実際に体験してみると、飽きるどころか新しい発見が次々とあり、複数回観ることの効用を実感しました。最後はこの作品に出会えた者として、シーンを目に焼き付けておきたいと思ったのです。

リピーターの心境を分析するとき、いまでもこの作品が私のメルクマークになっています。