この記事は2010年6月に掲載されたものです。
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「INDEPENDENT」全国ツアーが意味するもの

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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かねてから噂されていた大阪・in→dependent theatreグループの一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT」ベストセレクション再演の全国ツアーが、ついに発表された。2011年7月~9月(予定)で、現在決定している上演地は大阪、東京、札幌、仙台、福岡、沖縄。これ以外にも交渉中で、興味のある劇場・制作者にコンタクトを呼び掛けている。06年ごろから全国展開を表明していたので、5年かけての実現となる。

芸術面では一人芝居の可能性を大きく広げる表現が満載で、関西小劇場界が全国に誇れるコンテンツと言っていいだろう。最近は他地域からの参加もコンスタントにあり、名実共に全国を代表する一人芝居フェスとなっている。東京でも観ることが出来ない内容だ。一人芝居というと、どうしても表現の限界を感じる方が少なくないと思うが、そういう方は東京の若手演出家が近年広めたリーディング公演の可能性を思い出していただきたい。リーディング公演を単なる朗読劇だと思っていた方は、斬新な演出に衝撃を受けたはずである。「本公演と遜色ない」と感じたはずである。「INDEPENDENT」でも全く同じことが起きているのだ。

今回は満を持しての全国ツアーということで、06年~10年に上演された60本から10本を厳選して持っていく。毎年の「INDEPENDENT」に参加すること自体に審査があるので、2段階の審査を経た選りすぐりの傑作ということになる。作品のクオリティは、まず間違いないと思っていい。こんな鉄板のコンテンツはそうあるものではない。全国の劇場・制作者は安心して呼んでいただきたい。

もちろん集客力のあるスターが出演するわけではないので、内容が優れているからといって、観客が入るわけではないだろう。白石加代子氏『百物語』のようにはいかない。だが、ここには小劇場の魅力が詰まっている。出入り自由な空間で、小劇場を気軽に体験出来る最適のスタートラインがある。地域で演劇の魅力を広めていこうと考えているなら、この企画をうまく使ってほしい。さらに今回は開催都市でも新作製作するという。公共ホールの自主事業にするには格好の説得材料だろう。いまなら来年度の事業計画に組み込むことが可能だと思うので、これを読んでいる劇場・制作者は真剣に検討していただきたい。

コンテンポラリーダンスでは、JCDN「踊りに行くぜ!!」が独自の巡演ルートを確保し、比較的容易に旅公演を成立させてきた。小劇場演劇の制作者はそれをうらやましく思いつつも、規模によるコストや受け入れ体制の違いにより、ツアーはどうしても慎重にならざるを得なかった。機動性のある一人芝居を「INDEPENDENT」のようなクオリティを担保出来る形で提供出来れば、小劇場の新しい巡演ルートになるのではないか。今回の全国ツアーは単に10周年記念のイベントというだけでなく、演劇版「踊りに行くぜ!!」のスタートだと感じている。

これまでの「踊りに行くぜ!!」開催都市には、ほとんど小劇場系が訪れない都市も含まれている。そんな街も「INDEPENDENT」なら呼べるのではないか思う。コンテンポラリーダンスのように美術館にも呼んでほしいし、「INDEPENDENT」ならギャラリーでの上演も可能だろう。演劇の明日を切り開く企画として、上演地が広がることを期待したい。