2005年に発行されたキャラメルボックス・加藤昌史プロデューサーの『拍手という花束のために』が、ビジネス系のメールマガジンで紹介され、一時的にベストセラーにランキングされたそうです。
この本は版元であるロゼッタストーンのサイトでバックナンバーが読める「嫌われ者のすすめ」をまとめたものと思われがちですが、それは全体の4割程度で、あとは書き下ろしと対談・インタビューで構成されています。書き下ろし部分には券種別動員内訳、グッズ別売上高、劇団員年齢別収入例などの初公開資料もあり、制作者なら興味津々のはず。
動員が増えたあとの観劇マナーをどう維持するかの苦労話も興味深いです。上川隆也氏の人気に伴い、劇場が初めてという観客が増えたときのエピソードと対策が何か所か書かれているのですが、結果的に動員の約60%を占めるサポーターズ・クラブ会員がクッション材の役割を果たし、新しい観客にマナーを伝えています。
これは非常に悩ましい問題で、劇場に来たことがない人に演劇を体験してもらいたいという思いは制作者なら誰もが抱いているはずですが、お茶の間感覚で私語、飲食、携帯電話、写真撮影をされると本当に困るわけです。いくら周囲してもダメな人というのは、ある程度います。いまは公演の人気度とチケット入手の難しさでバランスが保たれているわけですが、これが崩れると観劇マナーがムチャクチャになる恐れがあります。
そう考えると、例えば三谷幸喜作品のチケットが入手し難い(演劇ファンが手を尽くしてやっと取れる)という状況は、上演のためにはやむを得ないことなのかなという気もするのです。これは第三舞台が当日パンフに「客席はお茶の間ではありません」という注意書きを入れたころからの課題ですが、演劇とテレビの接点が増している現在こそ、考えなければならないテーマでしょう。日々こうした問題に直面しているであろう商業演劇の制作者の皆さんにも、ご意見を伺えたらと思います。
キャラメルボックスという存在は、芸術面の評価は人それぞれでしょうが、制作面では業界を切り拓いてきた先達として参考になることが少なくありません。その意味でも一読するとよいでしょう。文体が喋り口調と同じなので、制作講座等で知られる加藤氏の熱気も充分伝わると思います。