この記事は2013年4月に掲載されたものです。
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「TPAM in Yokohama」がより開かれた存在になるためには

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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小劇場レビューマガジン「ワンダーランド」に、「TPAMエクスチェンジ『地域演劇』グループミーティングレポート」が4月10日掲載された。筆者は「イチゲキ」を運営している廣澤梓氏で、ワンダーランド編集部にも所属している。

「TPAMエクスチェンジ」は、2013年2月9日~17日に開催された「TPAM in Yokohama 2013」(国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2013)で企画された交流プログラムで、ブースを設けて情報発信を行なうものだ。2011まで「ブース・プレゼンテーション」、2012は「プレゼンテーション・プログラム」という名称で、TPAMスタート時から続いている基本形である。2013の特徴は、予約制のグループミーティングが設けられたこと、ファシリテーターを野村政之氏(こまばアゴラ劇場・青年団制作)が担当したことだ。このグループミーティングに対してのリポートである。

グループミーティングは2月16日~17日の2日間で、1テーマ20分の枠が同時に4~5本開催される。ブース会場とミーティング会場は分かれており、時間になったらミーティング会場のテーブルを参加者で囲む趣向である。1テーブル6名程度の規模で、ブースで話し込むほどではないが、もう少し詳しい話を聞きたいという層を狙っている。出展登録していないホストもいるが、これは提携事業である舞台芸術制作者オープンネットワーク設立イベントからの参加と思われる。会場の雰囲気は、中九州・横浜情報サイト「パワナビ」が詳しい。

廣澤氏は、このうち16日の「ARC>Tと仙台の演劇活動」「名古屋/地域で一筋40年/うりんこ/継続するカンパニー」「三重県文化会館と津の演劇環境」「枝光本町商店街アイアンシアターについて」の4本に参加。横浜にいながら各地の現状を当事者から聞く、得難い体験になったと思われる。リポートの後半では、そうした貴重な機会でありながら、TPAMが観客に周知されていないことに対し疑問を呈している。

このリポートについて野村氏がTwitterで反応、他の方の意見も含め、廣澤氏自身がTogetterでまとめている。

Togetter「TPAMエクスチェンジレポート関連ツイートまとめ」

また、編集者の藤原ちから氏がブログで感想を書いている。

BricolaQ Blog (diary)「TPAMに関して」

私自身、TPAMの在り方に長年疑問を感じてきたので、廣澤氏の言いたいことはよくわかる。ただ、グループミーティングのリポートで書くと、「TPAMエクスチェンジ」自体に問題があるかのように受け取られるかも知れない。「TPAMエクスチェンジ」は舞台関係者同士のマッチングが目的で、今回はむしろ改善が見られる。考えるべきは、もっと大きなTPAM全体のコンセプトの具現化だろう。

TPAMは横浜へ会場を移した2011から、「Performing Arts Market」(芸術見本市)を改め、「Performing Arts Meeting」(舞台芸術ミーティング)となった。「見本市」時代のTPAMは、買取公演の商談が目的で、それにセミナー等が付随するものだった。それが「ミーティング」に変わり、マッチング機能の重要性は変わらないが、その過程に横浜の人々を巻き込むことが、コンセプトとして加わったはずである。

過去14回開催した「芸術見本市(TPAM)」が「Market」から「Meeting」に生まれ変わり、国際都市・横浜で「国際舞台芸術ミーティング in 横浜(TPAM in Yokohama)」として再始動します。アーティスト、プロデューサー、フェスティバル・ディレクターなどの新しい出会いの中から生まれる同時代的舞台芸術の率直な創造現場に是非お立ち会い下さい!

(中略)

TPAM in Yokohamaは、国内でいち早く「クリエイティブ・シティ」構想を掲げた横浜の創造界隈にて、舞台芸術の実験精神と都市のクリエイティビティを融合させ、質の高いコンテンポラリー・パフォーミング・アーツの情報交換や具体的なプレゼンテーションを行ない、議論を深め、広い意味での「出会い=ミーティング」を作り出し、横浜に根付いた舞台芸術の国際的交流と創造的深化を目指します。

観客とは無縁だった「見本市」時代のTPAMから、より開かれたTPAMへ。プロフェッショナルの舞台関係者がターゲットであっても、舞台芸術の重要なステークホルダーである観客が、もっと参加出来る要素があってもいいのではないか。

例えば、ショーイングプログラムの料金体系を見ても、これが見本市なのか演劇祭なのか曖昧で、観客向けにショーイングプログラムに特化した安価なパスポートがあってもいいと思う。ネットワーキングプログラムも毎年無料の範囲が異なり、無料プログラムを積極的に周知していないように思える。廣澤氏が17日の「TPAMエクスチェンジ」は無料だったと強調しているのもそのためだ。

今回のグループミーティングで見られた地域とのマッチング機能はどうなのか。TPAMは海外への作品紹介を目的に創設されたため、国内でのマッチング機能が弱い。地域からの出展及び参加者は限られる。この領域へリソースを割くことも必要ではないか。地域からの出展に応えられる場を設けることが、事務局の責務だと私は思う。

私は、02年のTPAM(芸術見本市2002東京)にfringeとしてブースを出展し、地域の20カンパニーから預かった資料を配布したことがある。このうち12カンパニーは映像プレゼンテーションも実施した。出展費用を分担することで、最小限のコストで情報を届けたいと考えたのだ。当時の出展規約では3団体以上の共同出展は認められていなかったが、fringeが代表となることで事務局の許可を得た。

「芸術見本市2002東京」でのfringeブース(2002年8月22日撮影)
「芸術見本市2002東京」でのfringeブース(2002年8月22日撮影)

TPAMにfringeというブースを出展したため、東京の小劇場フェスティバルと勘違いする外国人が多かったが、リージョナルシアターを集めて紹介していることを説明すると、逆に激励を受けた。しかし、地域の小劇場演劇に興味を示す国内の来場者は当時ほとんどおらず、TPAMは海外向けの見本市だと痛感したのである。

TPAMが国内のマッチング機能をどう創出していくかは、現在も大きな課題だ。「見本市」時代は、TPAMの目的と参加者の思惑が乖離していると感じたことが何度もあった。これから本当に機能する「ミーティング」の場をつくっていけるのか、注目したい。