前回魅力を列挙した10-BOXですが、仙台の演劇人の方が書く「サクマチップス」は、稽古場としては便利でも劇場としては集客が難しいことを指摘されています。
確かに交通の便は弱点で、10-BOXとしても本格的な劇場運営は地下鉄東西線開通を視野に入れているわけですが、このアーティクルで考えたいのは「わざわざ芝居を見てもらいため”だけ”にあそこまでお客さんに来てもらう」ことが可能かどうかです。
「わざわざ」の反対語は「ついでに」「ふらりと」になると思います。映画館の多くはこの条件を満たす繁華街に立地していますが、それは1日に何回も興行が可能で、定員をあまり意識する必要がないためです。「ふらりと」足を運んで次の上映まで時間があれば、他の店で時間を潰せばいい。これが演劇だと多くても1日2回、しかも間隔が空いていますから、必然的に時間に合わせて「わざわざ」行くことになります。
ですから「わざわざ」自体は悪いことではありません。その代わり、「わざわざ」にふさわしい感動を観客に届ける必要があります。観ないと伝わらない作品のクオリティ以外に、目に見える形での付加価値も提示し、「わざわざ」でも行きたい場所にしなければなりません。それは「サクマチップス」でも指摘されているイスや接遇サービスの向上、全席指定の導入でしょうし、それでも遠いと思えるならポストトークのような付帯イベントを実施して、劇場に行く目的を増やします。
旅行に行くとき、「わざわざ」という副詞をつける人はいません。旅行は「わざわざ」行くのが当たり前だからです。10-BOXに行くことを「日常の小旅行」と位置づけ、「わざわざ」行きたい場所にする具体策を考えていきましょう。私はカンパニーが独自に仙台駅との送迎バスを出してもいいと思います。バスの貸切料金は1時間1万円ぐらいのはず。開演と終演時に2台ずつ出して4万円なら予算に含められるでしょう。役者が同乗して見どころをガイドしたり、バスに乗るときにチケットをもぎれば、不正乗車防止と合理化で一石二鳥です。
映画館的発想としては、興行本数を増やして演劇を選べる場にする方法もあります。BOXを複数利用して、いくつかの公演が同時に行なわれているようにすれば、「その場で作品を選べる」「複数の作品をハシゴ出来る」というシネマコンプレックスの環境が実現します。観客やスタッフの奪い合いも予想される冒険ですが、マスコミにも取り上げられるでしょうし、仙台市民に10-BOXを注目させる効果があるのではないでしょうか。
バスでしか行けない劇場は、他の政令指定都市でも結構あります。ネット上で意見交換し、様々な可能性を探っていくべきだと思います。これは演劇書などでは得られない情報だと思います。そのためにfringeという場を用意しているつもりです。
なお、「サクマチップス」を「注目のウェブログから」で【制作系】にしたのは、過去記事を通読して制作寄りの話題が多いと感じたからです。他意はありません。