波紋を呼んだ朝日新聞大阪本社版3月19日付夕刊記事(以後「朝日新聞記事」)、それに対する平田オリザ氏の青年団サイト4月1日付「新年度にあたって 文化政策をめぐる私の見解」(以後「4月1日付見解」)、そして平田氏自身が「それをお読みいただければ、おおかたの誤解は解ける」とした日本劇団協議会機関誌『join』68号のロングインタビュー(以後「『join』68号」)と、この話題を巡る情報は一定のレベルで共有されつつある。平行して文化審議会文化政策部会の議論も進み、劇場法(仮称)は法制化に向けて着実に進んでいるようだ。この時点での私の考えをまとめておきたい。
『映画館(ミニシアター)のつくり方』
地域の制作者にとって、劇的な研修環境の変化が訪れた
ITを活用した映像ライブ配信やtwitterでの実況中継など、地域にいても東京で行われるセミナー等が増えてきています。
2月からの3ヶ月だけでも、以下のような例があげられます。
座・高円寺は学芸事業のネーミングに配慮を
座・高円寺が3月27日~28日に開催した子供向けワークショップの発表会タイトルが、「飛ぶ劇場」となっている。演劇界で「飛ぶ劇場」と言えば、当然ながら北九州のカンパニー・飛ぶ劇場を思い浮かべるわけで、私もこのタイトルを最初目にしたときは、「こんな時期に飛ぶ劇場の東京公演ってあったっけ」と戸惑った。飛ぶ劇場主宰の泊篤志氏も東京の友人から連絡を受けて驚き、個人ブログでこう書いている。
「飛ぶ劇場」というネーミングは確かにありがちで、小劇場に詳しくない人なら使ってしまうかも知れない。このワークショップも外部のアートNPOに運営を委託しているようで、彼らが北九州の飛ぶ劇場を知らなかったのかも知れない。けれど、このタイトルを見た座・高円寺の学芸スタッフや広報スタッフは当然小劇場の専門家のはずだから、その時点で変えるようアドバイス出来たのではないだろうか。
商標登録されている名称ではないので、使っていけないということはない。演劇以外のジャンルなら、勘違いする人もいないだろう。しかし、座・高円寺という小劇場演劇を軸にした専門劇場で「飛ぶ劇場」を使ってしまうのは、いくら学芸事業でも配慮に欠けるのではないだろうか。誤解を招くこともそうだが、この名前を長年使っているカンパニーに対するリスペクトを持ってほしいと思う。「鳥の劇場」も同じ理由で使えないと思う。
(2010年3月31日追記)
本記事掲載直後、座・高円寺広報より連絡をいただいた。
飛ぶ劇場の存在は承知していたが、ケストナーの『飛ぶ教室』を強く意識した佐藤信芸術監督の要望により、敢えて事業名として使用したという。ただし、カンパニー側にその旨を伝えていなかったのは軽率であり、カンパニー側に早急に連絡を取ってお詫びするとのこと。
3月30日付のブログトマリ「続報、『偽の飛ぶ劇、東京に現る?』」によると、劇場から連絡があり、この名称は今後も使用したいが、同一表記を避けるため、「とぶげきじょう」のようなひらがな表記を考えていきたいという。
映画業界の創客努力
創客の先達として、映画業界の動向は常に注目する必要がある。「映画館に行こう!」実行委員会による全国の劇場上映スケジュール配信と、映画演劇文化協会による「午前十時の映画祭」について触れておきたい。
「映画館に行こう!」実行委員会といえば、2004年からの「夫婦50割引」、05年からの「高校生友情プライス」キャンペーンで知られる。「高校生友情プライス」は平均利用率1%で09年に終了したが、「夫婦50割引」はキャンペーン前の映画人口比3%が平均7%を超えるようになり、映画ファンが延べ700万人増えた計算になるという。このため07年のキャンペーン終了後も正規の割引制度として全国の映画館で定着した。素晴らしい成果だと思う。
地域のアートマネージャーの雇用環境3
(続き)
このようなシステムが出来ることで、人材の遠隔地への流出も減少するだろうと思います。それでも100%のアートマネージャーがその地域にとどまるわけではないので、新たな他地域の人材がはいってくる余地も確保されます。このあたりはバランスが大切なところです。
このシステムが実現した場合でも、その地域でのアートマネージャーのキャリアアップというのは望みにくいのですが、それでも大きな前進だろうと思います。キャリアアップについては、都市圏や県単位で嘱託の係長ポストと課長ポストを用意出来ればクリア出来そうにおもえますが、これについては将来の課題ということでここでは考えないことにします。
人材の育成を考えるときに、雇用環境の問題はやはり重要な要素です。一定規模の需要と供給を確保しなければ、健全な雇用環境は成立しません。
近隣市が雇用の面で連携して、一定規模の需要と供給を確保し地域アートマネージャーの健全な雇用環境を実現すれば、アートマネジメント人材の育成もすすみ、地域の芸術文化環境は大いに前進するでしょう。
(終わり)
劇場主催公演の開演時間に劇場はもっとコミットを
こまばアゴラ劇場「冬のサミット2009」に参加した突撃金魚の公演日程について、ブログ「休むに似たり。」が疑問を呈した。2/23(火)~2/24(水)の平日2日間3ステで、千秋楽が18時開演だったことについて、「誰を呼びたいのか、さっぱりわかりません」と指摘している。これに対しフェスティバルディレクターの杉原邦生氏が、コメント欄で次のように回答している。
開演時間については概ね各カンパニーの判断になっております。
18時開演というのは、昨年議論になった「シアタートラム ネクスト・ジェネレーション」でのtoi平日18時半開演よりも早い。社会人の観劇は非常に難しいのではないだろうか。
制作者がドラマトゥルクを名乗る必要があるのか
小劇場界でもドラマトゥルクというクレジットを散見するようになった。
ドラマトゥルクという職能は重要だと思うし、余裕があるならそうした専門スタッフを置くことは意義があるだろう。ただし私が疑問に思うのは、ドラマトゥルクという概念が一人歩きしてしまい、制作者とは全く別にドラマトゥルクという職能が存在するかのような風潮にあることだ。
どんなカンパニーでも東京なら3,000人動員出来る
若手カンパニーにとって、動員の目標はまず1,000人、そして次の目標が3,000人になる。3,000人を超えれば公演収支にもある程度の余裕が生まれ、「業」としてのカンパニー経営が見えてくる。演劇を「業」として成立させるためには、やはりこれぐらいの観客は獲得しなければならない。動員がすべてではないが、表現活動を継続するための目標値として、すべてのカンパニーが自覚すべき数字だと思う。
地域のアートマネージャーの雇用環境2
(続き)
また、その方にとってもその地域で培った人脈が、次の職場では十分に活用できないということになります。他の分野もそんなに変わらないと思いますが、演劇でいうとその地域の表現者との人脈や信頼関係は、仕事をする上でもっとも重要な財産です。