この記事は2011年6月に掲載されたものです。
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「東日本大震災における東京・横浜の公演対応状況まとめ」をつくったわけ

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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fringe[ケーススタディ]のコンテンツとして、「東日本大震災における東京・横浜の公演対応状況まとめ」を掲載した。今回の震災では、地震に加えて原発事故・計画停電など様々な要因が重なり、公演可否の判断が劇場・上演団体ごとに分かれた。この背景を知るには、公演関連の発表だけでなく、刻々と変わる社会情勢を併せて見る必要がある。また、時間の経過につれ、発信されたリリースやブログ自体が散逸する恐れもある。それらをまとめて概観出来るコンテンツを作成し、長く記録として残すのがfringeのミッションではないかと考えたのだ。

震災直後、fringeはリアルタイムな情報発信はなにも出来なかった。それは私自身が本業の対策に追われ、身動きの取れない状況にあったからだ。まずは本業の事業継続に没頭する必要があり、それがその時点で私がやるべきことだった。非常時における情報交換はTwitterに比重が移っており、速報性が問われる状況で従来のサイトが出来ることは限られている。そのため、そうしたことはTwitterに任せ、状況が落ち着いてからサイトならでのまとめをしたいと思っていた。記録性や一覧性が求められるまとめこそ、fringeがやるべきことだと思った。

このまとめを見ると、劇場・上演団体ごとに様々な対応が取られたことがよくわかる。ニュースと併せて見ることで、いかにシビアな判断だったかもよくわかる。公演の是非については賛否両論あるだろうし、将来的に放射線の影響が出てから評価されることもあるかも知れない。だが、日常の継続という意味で上演を支持する私の視点から見ると、なんとか公演を継続したいという共通の思いが、上演中止した団体も含めて全体的に感じられ、自粛ムードに影響されたわけではないことが再確認出来てうれしかった。

結果論になってしまうが、震災後早期に上演継続を決めた劇場・上演団体は、その後の原発事故・計画停電の広がりに対しても、覚悟を決めて突き進んでいった印象がある。一方、状況を見極めようとした劇場・上演団体は、その間に状況がさらに悪化し、悲観的な方向へ判断が流れていった印象がある。これは気の毒としか言いようがない展開だと思う。通常の災害なら、時間と共に事態が改善するのがセオリーだが、今回は原発事故により、逆に深刻な状況に進んでしまった。私たちの経験の真逆を行く事態に、判断が交錯したのもやむを得ないと思う。

例えば、3月18日からの公演再開を目指していたシーラカンスプロデュースが、次の判断をすべきタイミングで原発事故の広がりに直面し、残り全日程を中止したケースなどは、魂を揺さぶられる思いだ。心中を察するに余りある。TBS+梅田芸術劇場+ホリプロ『マルグリット』は、3月17日に初日を遅らせたが、もしこれが1日遅れていたら、シーラカンスプロデュースと同じ判断になったかも知れない。東京で3月16日ごろから顕著になった外国人の避難、大企業の自宅待機などが、ギリギリの決断を迫ったのだと思う。パニックにならないよう報道が抑え気味だったので、西日本の方はあまりご存知ないと思うが、このとき外国人の避難に伴って外資系小売業や飲食業の臨時休業が相次ぎ、首都圏の人間も迫り来る恐怖を実感していた。

シーラカンスプロデュース制作の斎藤努氏(ゴーチ・ブラザーズ)は、『シアターガイド』6月号でこう述べている。

今回は単純な地震による影響だけではなく、原発、電力など検討しなければならない問題が多すぎたため、さまざまな判断がありました。このような時に情報が一元的に集まる場があれば非常に役立つと思い、今後はそういう場を作ることも検討したいと考えています。

コンテンツの構想を練っているとき、この発言が大きな支えとなった。リアルタイムでは貢献出来なかったが、このまとめが今後の参考になれば幸いである。