劇場法(仮称)に関する議論は、専門職員の配置やアーツカウンシルの在り方に収斂してきた感があるが、ここで原点に立ち返って劇場を巡る法律について考えたい。ハードとしての劇場を規定する法律は建築基準法、消防法、興行場法などがあるが、かつて平田オリザ氏は根拠法のない劇場についてこのように書き、自分たちでなにも決められない劇場を嘆いていた。
定員や禁止行為を規定した消防法については、劇場法(仮称)制定で裁量に委ねられないかという期待もあると思うが、国民の生命を守るという消防法の目的を考えると、劇場・音楽堂を適用除外にすることは難しいだろう。根拠法を持つ図書館や博物館の規制が緩いとしたら、むしろそちらが強化されるのが時代の流れだと思う。
これに対し、保健所が管轄する興行場法は私も内容に疑問を感じる。興行場法の目的は、多数の人が集まる場所で衛生水準の維持・向上を図ることだ。この趣旨に則るなら、本来は興行場に限らず、人が多く集まる施設すべてを対象にすべきではないか。なぜ混雑する美術館が対象外で、小劇場なら有無を言わせず対象なのか、説明がつかない。そもそも昭和23年施行という戦後の不衛生な時期につくられた法律であり、それがいまだに幅を利かせていること自体おかしい。
興行場法はトイレや換気設備を規定しており、これが障壁となって劇場化出来ないスペースは全国で多い。月4日までなら興行場法が適用されないので、やむを得ず公演を短縮しなければならない。戦後65年経つというのに、なぜ興行場だけがトイレの数まで規定されないといけないのか。デパートやホテルのロビーなど、世の中にトイレが少なくて不便を感じる施設はいくらでもある。
根拠法が必要という議論以前に、まず現在の興行場法を見直すべきではないだろうか。これならすべての演劇人が賛同すると思う。劇場法(仮称)とは別の次元の問題として訴えたい。