この記事は2010年3月に掲載されたものです。
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どんなカンパニーでも東京なら3,000人動員出来る

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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若手カンパニーにとって、動員の目標はまず1,000人、そして次の目標が3,000人になる。3,000人を超えれば公演収支にもある程度の余裕が生まれ、「業」としてのカンパニー経営が見えてくる。演劇を「業」として成立させるためには、やはりこれぐらいの観客は獲得しなければならない。動員がすべてではないが、表現活動を継続するための目標値として、すべてのカンパニーが自覚すべき数字だと思う。

私は、かねてより「どんなカンパニーでも東京なら3,000人動員出来る」と公言してきた。もちろん旗揚げ直後は無理だが、段階を踏んで手法を間違えなければ、一定のクオリティを持った集団なら3,000人集めることは充分可能だと思う。エンタテインメントに限らず、観客を選ぶ作風であっても同じだと思う。決して妄想ではなく、それなりの経験を持った制作者同士でしゃべっていると、この感覚はだいたい共有出来るのではないかと思う。

文芸書のハードカバーはなかなか売れないと言われるが、中でも純文学は初版の刷り部数が3,000部程度だと聞く。純文学が3,000部刷っているのなら、どんなに観客を選ぶ舞台芸術だって3,000人を目指してほしい。観客が少ないのは、作品に興味を持つ人が少ないからではなく、その作品を必要としている人に存在が知られていないからだ。その意味で、本来はアーティスティックな作品ほど宣伝に力を入れなければならない。3,000人という数を夢物語と感じるようでは、その時点で負けていると思う。

3,000人という数はゴールではない。エンタテインメント系ならそこからさらに動員を増やして収益を上げればいいし、アーティスティック系なら支援会員制度などで基礎票として取り込み、さらに多様な表現に挑戦していけばいい。小劇場演劇を「業」にするための興行的なスタートラインだと思う。

1,000人は手探りでやっていても到達出来る数字だが、3,000人になると戦略と戦術が必要になる。その戦略と戦術が担える制作者が専任で必要だし、制作者へそうした権限を委譲出来る判断が主宰には求められる。3,000人を達成出来ないカンパニーの原因を突き詰めて考えると、次のいずれかになるだろう。

●そもそも3,000人呼べるステージ数を確保していない。

すでに力があるのに、3,000人呼ぶためのロングランをしない集団が該当する。1週間の公演が満員なのに、次のステップに踏み出せないところだ。常連客でチケットが安定的に売れているように見えても、視点を変えれば新しい観客の観劇機会を奪っていることになる。どの段階でどの程度の劇場契約が必要かという長期的戦略に問題がある。

●作品自体に3,000人呼べるクオリティがない。

3,000人呼ぶためには、当然ながら一定のクオリティが必要だ。先に挙げた純文学の例でも、編集者が認めた小説しか出版されないわけで、誰もが本を出せるわけではない。これに対し、小劇場は誰もが公演を打てる玉石混交の世界で、石のままではやはり粗すぎる。これはカンパニー自身が人材育成に努めるしかないだろう。

●制作者に集客センスがない。

制作者にも得手不得手があり、創作面に強い人もいれば、当日運営のエキスパートもいる。だが、3,000人の動員を目指すなら集客センスというものが強く問われる。宣伝もそうだが、チケット販売方法も重要な集客センスだ。俳優の手売りが伸びないなら、進んで売りたくなるようなインセンティブを設けなければならない。

●主宰が制作者に権限委譲出来ていない。

制作面に主宰が口を出しすぎ、制作者のモチベーションを削いでいるパターンだ。有川浩著『シアター!』では、主宰の兄が資金提供者となって制作面を仕切ったが、これを読んだ演劇通から「兄という絶対的上下関係があったから成立したのでは」という指摘があった。主宰が制作者を信頼してどこまで権限委譲出来るかがポイントだろう。

東京以外の地域では、観劇人口の違いから必然的に目標数字が下がると思うが、黒字を出すという観点からは必要な動員数に大きな開きはないはずだ。この数字を決して夢物語だと思わずに、政令指定都市レベルでは現実的な目標としてとらえてほしい。

アーティスティックな表現に観客は集まらないと思っている人は、日本が美術展の1日あたり観客動員数世界一だということをご存知だろうか(05年~08年、英国「The Art Newspaper」調べ)。話題の企画展に集中している面はあるが、日本人は決してアート嫌いではない。潜在的な観客は全国に必ずいるはずで、そこへのリーチが問われている。

(参考)
公演で黒字を出すということ
いまの東京の小劇場界を盛り上がっていると感じている人は、大きな勘違いをしていると思う