演劇制作者は、美術の世界に例えるとキュレーターに相当すると思います。そのキュレーターの役割と考え方をわかりやすくまとめた入門書が2月に出ました。
1960年代以降に生まれた若手キュレーター中心に、具体的な事例とアートの境界が揺らいでいる現代での課題についてまとめています。「どこまでがアートなんですか?」「エンターテインメントをアートとして展示するのは?」などといった率直な疑問も、Q&A形式でキュレーターたちが自らの経験を踏まえて回答しています。
目次がフィルムアート社サイトにあるので見ていただきたいのですが、キュレーターを制作者、美術館を劇場に置き換えても、そのまま成立するような内容だと思います。イントロダクションに書かれた次の文章を読んでも、演劇のミッションと変わらないことが伝わってくるでしょう。
この仕事はアートを通して公共圏をつくりあげていくようなものだと理解してもらってもいいかも知れません。アートにおける表現は、具体的な生への関心から生まれているため、極めて個人的、私的なものだと言えます。しかし、それは他者によって眺められること、あるいは経験されることを求めています。それが展覧会という場の持つ公共性であり、そこにはあらゆる者が参加できることが望まれます。
(中略)
社会のなかでいまだ承認されていないような価値観が生き延びていき、お互いの差異を認め複数性を獲得していくような場所として共生や連帯を感じ取る役割が、アートにはあるのではないでしょうか。
(中略)
社会のなかでいまだ承認されていないような価値観が生き延びていき、お互いの差異を認め複数性を獲得していくような場所として共生や連帯を感じ取る役割が、アートにはあるのではないでしょうか。
pp.16~17「いま、キュレーターに求められているものとは?」住友文彦
仕事のやりがいについてのQ&Aは、制作者にとっても考えさせられるのではないでしょうか。金沢21世紀美術館の鷲田めるろ氏は、「達成感、承認される喜び、そして、自分の考えが更新されること」と答え、特に最後の点を強調しています。
鷲田氏は展覧会の一環で認知症のお年寄りを訪ねてワークショップを行なったのですが、展覧会後にお年寄りたちはなにも覚えておらず、なんためのワークショップだったのかという思いから、自分の考えが揺り動かされていった経験を綴っています。これをやりがいと感じられることが、表現の現場にいる者にとって重要なのだろうと思いました。
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住友文彦 保坂健二朗
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