東京の若手で頭抜けた存在と言われるKAKUTA『南国プールの熱い砂』を、5月11日に観ました。青山円形劇場「Aoyama First Act」による公演です。ベテランカンパニーのウェルメイドな印象に近いものがあり、戯曲と役者は健闘していたと思います。
これが中劇場初進出になりますが、舞台は中心部+DEブロックで構成し、袖を設けずに客席扉をそのまま出ハケに用いていました(座席表参照)。完全円形に近い使い方です。各ブロックからのレビューを拝見すると、A~Cブロックが正面の設定のようです。裏に当たるFブロックは、確かに「休むに似たり。」が書かれているようにこの位置ならではの見方もありますが、「某日観劇録」が指摘されている
については真摯に受け止めてほしいと思います。劇場以外でのイベント公演にも挑戦しているカンパニーですから、青山円形という空間の使い方に配慮が欲しいのと、もし正面・裏が明確な演出なら、チケット販売時に観客への案内が必要だったと思います。
私は幸いHブロックで演技を堪能し、若いころの自転車キンクリートにも似た清涼感を覚えました。作・演出の桑原裕子氏がこのまま成長すれば、きっと「ポスト自転車キンクリート」を担う存在になっていくと思いますので、さらに精進してほしいと思います。
青山円形ということで、もう一つ指摘したいのが舞台美術。リゾートホテルの屋外プールサイドを舞台にした今回の作品では、ほぼ全編が真夏の明るい照明にさらされ、客席が非常に近い青山円形では大道具の細部まで丸見えになります。タタキ風景が目に浮かぶような仕上げのパネル類は、作品世界に浸る大きな障壁になりました。仕上げの粗い大道具でも、普通の小劇場なら照明効果で逆に味が出るものですが、このような経験は私の観劇歴でもめずらしいことです。
リゾートホテルらしく曲線を多用したプラン自体はよいと思いますが、それを実際に加工する技術が追いついておらず、歪んでいるオブジェが非常に気になりました。アール加工が難しいなら直線にするとか、表面加工を工夫するとか、予算の兼ね合いもあるでしょうが大道具製作を外注するとか、「明るい青山円形で耐えられる舞台美術」について対策が必要だったと思います。スタッフは舞台美術(横田修+鈴木健介×突貫屋)・照明(西本彩=青年団)とも青山円形の特性はよくご存知のはずですが、なぜ今回このようなクオリティだったのか、奇異に感じます。
KAKUTAの実力なら今後は中劇場公演も増えるはずです。中劇場はスタッフワークの重要性が小劇場とは比較になりません。若い集団が外部スタッフに注文を出すのはしんどい部分もあると思いますが、芸術的妥協をせずに高みを目指してほしいと思います。
TBありがとうございます。Hブロックということは、バルコニーの演技エリアが正面にだったのではないでしょうか。出入りで役者がそばを駆抜けていくなど、なかなかの席ではなかったかと記憶しております。
自転車キンクリートは「STORE」しか観たことがないのです若い頃の清涼感というのはわかりませんが、桑原裕子の演技力を観ていると、KAKUTAと平行してKAKUTA STOREを展開してもいいのではないかな、と考えたりもします(でなければ桑原地図BARA MAPでも可)。脚本演出力の成長という観点からも、外部との接点を増やすことは本人のためになるのでは。
(自分の事は棚にあげて言うと)外に目を向けることで伸びるというのは、世の中の大抵のことにあてはまることではありますが。