この記事は2005年5月に掲載されたものです。
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接客は〈想像力〉だ

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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公演のフロントスタッフというのは、特殊な技能を要求する仕事ではありません。ホスピタリティを身に着け、お客様の立場になって考える姿勢があれば、普通は失敗することなどないはずですが、この基本が欠けている公演にまだ出会うことがあります。詰まるところ、接客技術というのは「こういうことをしたら相手がどう感じるか」「こういうことをするとどんな事態になるか」という〈想像力〉です。その〈想像力〉を共有することがフロントスタッフのクオリティであり、制作者に問われるセンスだと痛感します。

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私が最近体験した事例を二つ紹介します。一つはイスを並べた全席指定の公演での誘導。模式図の赤丸が私の席だったのですが、入口にいた場内整理はピンク色の通路の存在を知らず、緑色のように「ここから横に進んでいってください」と案内しました。すでに他の観客がかなり着席しており、その前を進むのは一苦労です。「ほかに道はないんですか」と確認したら、きっぱり「はい」と言われたのですが、席にたどりついて横を見ると、もう一本通路が用意されていました。本来なら青色のように、「舞台の前を横切ると奥に通路がありますから、そちらからお回りください」と案内すべきでしょう。公演初日で、フロントスタッフが場内配置を覚えていなかったのでしょうか。

もう一つは満員で通路まで追加席が出た公演。繁盛するのは結構なことですが、追加席を出した場合に重要なのは、客出しで真っ先にそのイスや座布団を撤去し、通路を確保することです。私が訪れた公演は段差のある客席だったにもかかわらず、スタッフが追加席をはずそうとせず、非常に危ないと感じました。事故が起きてからでは遅いのですが……。

どちらも小劇場系では比較的著名なカンパニーで、専任制作者がクレジットされていただけに、たいへん残念に思いました。フロントスタッフのレベルを揃えるのは難しいことだとは思いますが、専任制作者がいる集団でこうした不手際には出会いたくないものです。いま一度、〈想像力〉を養っていただきたいと思います。