今年発行されたアーツマネジメント関係書でぜひ手元に置いておきたいのが、フィルムアート社の「Next Creator Book」シリーズ最新刊『これからのアートマネジメント “ソーシャル・シェア”への道』だ。
同シリーズでは、2009年に『キュレーターになる! アートを世に出す表現者』を紹介したが、今回はアーツマネジメントそのものを取り上げ、しかも舞台芸術の比重が高い。類書が現代美術に偏重しがちな中、異なるジャンル同士が理解し合える稀有な内容だ。アーツマネジメントの分野で、やっと美術と演劇が対等に語られるようにようになったかという感慨さえ覚える。中川真氏(大阪市立大学教授)が編者のためか、関西の事例も目立つ。
サブタイトルに使われている「ソーシャル・シェア」とは、アートの力で他者とのアクセシビリティを生み出し、様々な事象をシェアすることで公共性をもたらすことを意味する。現代社会の閉塞的環境で、アートにしか出来ない可能性があると訴えている。これを突き詰めると、アートは「手段」なのか「目的」なのかという議論になるが、大澤寅雄氏(ニッセイ基礎研究所)は本書で、それはアートの「役割」なんじゃないかと回答している。Q&A形式の明快な回答は本シリーズの特徴で、ほかにもこんな質問が並んでいる。
- アートマネジメントの仕事のやりがいって?
- なぜアートを使って「町おこし」をするのですか?
- 東京は本当にアートフルになったのですか?
- 助成のシステムは、表現を軟弱にしませんか?
- 横浜は、本当にクリエイティブシティなのですか?
- 「劇場法」ってなんですか?
- アートマネジメントではどんな人材が必要とされますか?
- 公共性が高い=わかりやすいということですか?
- マネジメントの才能があれば、村上隆のようになれますか?
- 大阪市のアート政策は、なぜ挫折したのですか?
- ヒトラーがアートを使ってナチスをマネジメントしたって本当ですか?
- アートマネジメントで食べていくためには何をしたらいいですか?
- 日本より海外でアートマネジメントを勉強すべきですか?
ニヤリとする質問もある。現場の第一線から、わかりやすい(あるいは巧みな)回答が寄せられているが、中堅以上の制作者は逆に自分ならどう答えるかを考え、その答え合わせのつもりで読むといいだろう。
本編で特筆したいのは、中村茜氏(プリコグ)の「企画/制作の進め方」だ。制作者にとって最も重要な才能である企画力、それをきちんと言語化した文章は意外に少ない。ここでは中村氏個人の経験を通じ、その理念と問題意識を明確に提示している。ブリュッセルの演劇祭で、当時無名のチェルフィッチュに1,000名以上の観客が集まったことを例に、劇場・フェスティバルが普段から信念を貫いたプログラミングで観客との信頼関係を構築しているかどうかを問うている。日本の制作者にはアーティストに尽くすタイプが目立つが、中村氏はプロデューサーを志す人にこう述べている。
本書の最大の魅力は、コンパクトな体裁に多数の記事が詰め込まれ、様々な意見や事例をシャワーのように浴びられることだ。現場の躍動が伝わり、読者も元気のおすそ分けが受けられる。自分もこの世界へ飛び込んでみたいと思うのではないか。これは入門書にとっていちばん大切なことだろう。
売り上げランキング: 23248