この記事は2018年6月に掲載されたものです。
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演劇の創客について考える/(22)音楽以外の話題からアプローチし、クラシックを身近に引き寄せる音楽之友社Webマガジン「ONTOMO」。これの演劇版が出来ないだろうか

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

音楽之友社のWebサイト「オントモ・ヴィレッジ」が今年4月に全面リニューアルし、Webマガジン「ONTOMO」になりました。

音楽之友社と言えば、クラシックを中心とした老舗音楽出版社ですが、このサイトの柔軟性には目を見張ります。敷居が高いと思われがちなクラシックに対し、周辺の様々な物事との関わりから興味の糸口を探し、自分と感性の合ったナビゲーターを見つけ、プレイリストを共有するサイトです。

まだ始まって2か月ですが、素晴らしいサイトだと思います。興味がないジャンルに対し、いかに関心を持ってもらうかに注力している点で、括目に値します。自分の専門ジャンルについて詳しく語ることは、誰だって出来ます。そうではなく、専門以外の異なる角度から興味を掻き立てていくのは、至難の技だと思います。それに「ONTOMO」は果敢に挑戦しているのです。

ハッシュタグには「舞台・演芸」「映画」「本」「マンガ&アニメ」「写真」「スポーツ」「アート&デザイン」「社会」「ライフスタイル」「旅」「テクノロジー&サイエンス」「植物」など、クラシックとは直接関係ないものが並びます。書き手も音楽関係者に交じって、各分野のライターが参加。舞台関係は「高橋彩子の『耳から“観る”舞台』」「渡辺真弓のバレエに恋して」が連載されています。

5月22日には編集部の佐々木圭嗣氏による、ツアー中の「キャラメルボックス『無伴奏ソナタ』観劇レビュー」を掲載。バッハの名曲が重要なモチーフとはいえ、完全に演劇のレビューです。舞台の魅力を語りつつ、最後はクラシックの普遍性ともリンクさせています。琴線に触れる音楽ファンもいることでしょう。しかも、こんな応援ツイートまで。

「ONTOMO」を見ていると、従来の演劇ポータルサイトに足りないものが、具体的に目の前に突き付けられた気分になりました。演劇をどれだけ熱く語っても、それは従来の演劇ファンに向けてのものであり、創客のことを考えるなら、そうではないアプローチを考えなければならないということ。「ONTOMO」は私が演劇ポータルサイトに求めていたことを、クラシックで見事に実現していると思います。

クラシックは作品がすでに存在しているから、こうした記事がつくれるという意見もあるかも知れません。新作中心の現代演劇だと、扱える内容が限られるかも知れません。しかし、逆に過去の名作を紹介することで再演を促したり、カンパニーの作風自体を紹介することで、新作への関心を持たせることは出来ると思います。日常とは異なる空間を強調するあまり、演劇にどんな楽しみがあるのか、日々の生活から接点を求めることを、演劇関係者は意図的に避けている部分があるのではないでしょうか。

公演情報を網羅したデータベース的なサイトも、実際の観劇にはもちろん必要です。けれど、創客のためには「ONTOMO」のようなサイトが不可欠なのではないでしょうか。私が欲しいのは、このサイトの演劇版なのです。

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