「制作者は媒体を有している」で書いたとおり、演劇ポスター・チラシは、それ自体一つのメディアだと思う。ポスターやチラシが宣伝媒体だという文字どおりの意味ではなく、そこに使用するビジュアルが、若手アーティストの発表の場に使えるという意味である。
ポスターやチラシを作成するイベントは多いが、演劇の場合は舞台写真をそのままメインビジュアルに出来ない。公演前の宣伝段階で舞台写真は存在しないし、再演時も初演の写真を載せただけでは、作品の持つ魅力を伝えることは難しい。演劇は、その場に居合わせた観客自身が、見えないものを脳内補完して体感するものであり、映画のように名場面のスチールだけでは語れない。観客のイメージを掻き立てる全く別のビジュアルが不可欠なのだ。
このメインビジュアルをどうするか、制作者は毎回悩むところだと思うが、これを若手アーティストの作品発表の場にしたらよい、というのが私の提案である。今回はより具体的な方法を書いてみたい。
若手アーティストが作品を発表する場合、仲間でギャラリーを借りてグループ展を開くのが一般的だろう。当然費用がかかるが、入場無料が普通である。アートの場合、展示だけで料金を取れるのはよほど著名になってからで、まずは美術関係者やコレクターの目に留まらないといけない。コレクターに買い上げてもらうか、商業利用してもらわない限り、アーティストの収入は望めないわけで、だからこそ若手アーティストは発表の場を心から欲していると思う。
もちろんギャラリー以外でもいいわけで、飲食店の壁面を飾るケースはよく見かける。普段ギャラリーに足を運ばない人の目にも触れるし、店にとってもインテリアや話題づくりになる。ギャラリーを借りると高額になる個展が、店とコラボレーションすれば手軽に実現出来るわけだ。これと同じことが、演劇ポスター・チラシでも成立するのではないかと思う。
ここからは交渉だ。公演のために新作を依頼する場合は、ギャランティが必要かも知れないが、既存の売れていない作品を使用する場合は、無償でもよいのではないか。アート作品はそれなりに高額なので、著名なアーティストでも在庫を多く抱えている。ネット上のアートサイトで、オファー可能な作品を眺めていると、そのことがよくわかる。演劇ファンへの露出は、まだ売れていない作品を広く紹介するチャンスであり、決して一方的な提案ではないと思う。
ここで重要なのは、メインビジュアルに使用した作品の原画やオリジナルプリントが購入可能なことを、チラシに明記すること。価格やオファー方法もきちんと入れる。ギャラリーやアートサイトで行なわれていることを、チラシ上で実践するのだ。
公演前のポスターやチラシが想像力を掻き立てるものなら、公演後は思い出を甦らせてくれるものだ。その原画やオリジナルプリントが手に入るのなら、購入を考える観客が一人ぐらいいてもおかしくない。アート作品なので、逆に一人いればよい。演劇と同様、アートも出会いは一期一会であり、縁があるからこそコレクションするのだ。そうした思考がきちんと出来ていれば、アーティストとのコラボレーションも成立するのではないだろうか。