この記事は2016年6月に掲載されたものです。
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文化庁の京都移転についての諸意見について思う

カテゴリー: さくてき博多一本締め | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 高崎大志 です。

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 文化庁が京都に移転するというニュースを2月に知りました。
 そこから4ヶ月ほどたち、このトピックについての意見もチラホラと目にするようになってきました。

 東京に在住の方の「反対まではしないけど、どうなんだろうね、、、、」を散見します。これは、これはなかなかに抑制がきいた知的な態度だろうと思います。

 フツウなら、東京に住んでいれば、他地方のことはどうなってもいいので、自分の住む地域の利益を守りたいというのが自然の人情です。しかしながら、上述の意見は全体としては賛成ないしは反対はしないという立場から付帯意見をつけているものであり、広い視野で物事を見ているなと感じます。

 他方、京都新聞によるこちらの記事では、京都移転に反対する意見を取り上げています。

京都新聞|俳優、歌手、演奏家らの団体 「公演は東京集中」

このため、俳優や歌手、演奏家や舞踊家など約70の団体でつくる「日本芸能実演家団体協議会(芸団協)」は「舞台芸術は東京に一極集中しており、現場と文化行政に距離ができるのは困る」と主張。今年4月には、自民党の勉強会で実演家の不安を伝えた。

 これらは東京在住者の既得権益を守ろうとする意見で、こういう意見が上がることはやむを得ないことだと思います。
 こういった意見も尊重されねばなりませんが、しかし、これらは重視されるべき意見なのか?と考えると、東京という一地方のメリットだけで物事を判断しており、重視すべき意見とは言えそうにありません。

 今、日本の演劇シーンを考えた時に、最大の問題は中央一極集中・地域間格差の問題です。

 たとえば、交通圏を考えた時に、関東地方に在住している方にはほぼ毎日観劇の機会が提供されています。
 一方、それ以外の地方では観劇機会は週に1回あるかないかであったり、月に1回あるかないかというような状況だったりします。その月1回も1,2時間の移動が必要というところだって珍しくないでしょう。

 芸術文化振興基金や文化庁補助金といった公的助成制度は、合計で10億円を超えていますが、その7割は東京の団体に交付されています。
 これを観客ベースで考えるならば、(たとえば基金/補助金で作られた作品を見た観客の住所地を地域ベースで割り振りするならば)より多くの一極集中が見られるのではないかと思います。

 ネット上では、演劇シーンに関する課題についての言説を多く見ます。しかしそれは限定された地方についての話であったり、限定されたシーンについての話だったりして、地域間格差の問題と比べるとやはり重要度の点で比較になりません。

 これらの地方が抱える課題は、やはり中央にいてはやはり見えてこない。これは人間の限界というべきもので、どんなに優秀な人材でも逃れることが出来ません。
 そのようななか、中央一極集中の問題を改善するにあたり、文化庁の移転はこれ以上にいい方法はありません。

 演劇シーンの立場から異論が出ることも予想されますが、おそらくそれは一部分についての懸念にとどまり、もっとも大きな問題については放置されたままだろうと思われます。

 さすがに50年後100年後にどうなっているかはわかりませんが、文化庁が京都に移転したからといって、今の東京の演劇シーンが目に見えて衰退するようなことも、現実問題としては考えにくいでしょう。

 諸手を上げて賛成とは言い難い立場の方もおられるかと思いますが、この問題について、良識ある静観をお願いできれば幸いです。