全く予備知識なしに、宣伝だけで西加奈子氏『さくら』を買いました。私がこの本を買った経緯をご紹介することで、宣伝が人に与える影響を感じていただけたらと思います。
[STEP1]小学館の雑誌で広告を目にする
『DIME』で目にした自社稿ですが、書店員の声を載せた内容でした。本好きの書店員が絶賛しているのなら読む価値あるかなと、タイトルと表紙をなんとなく記憶しました。
[STEP2]別の筆者と間違えて好印象を増加させる
作者の名前は覚えていなかった私が、ふと目にした読売新聞4月1日付「顔」欄。『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を受賞した瀬尾まいこ氏が紹介されていたのですが、家族を描いた小説ということで、私は彼女を『さくら』の作者と勘違いしてしまったのです(その後知りましたが、どちらも家族の不在がモチーフになって似ています)。瀬尾氏は京都府京丹後市の中学教師で、無欲で創作活動を続けている姿を綴った文章(大阪本社文化部・西田朋子記者)で好感が増し、書店で手にしてみようと気持ちが高まりました(瀬尾さん、失礼お許しください)。
[STEP3]帯に書かれた編集者の推薦文が決め手
書店では平積み状態でした。奥付を見ると発売1か月で4刷。ベストセラーなのはわかりますが、それだけで買おうとは思いません。裏の帯にとんでもないことが書いてあったのです。担当編集者(男性)が「いままで本を読んで泣いたことは、一度もありませんでした。でも、この作品を読んで、はじめて涙をこぼしました」と、文章を寄せていたのです。惹句を書くのは編集者の仕事ですが、編集者の個人的な文章を載せた帯というのは、ちょっと記憶にありません。売るためとはいえ、「はじめて涙をこぼしました」は覚悟のいる表現です。これは読まねばと思いました。
演劇の宣伝も同じだと思いますが、複数の媒体による相乗効果で印象を高め、最後は琴線に触れる「なにか」が背中を押します。今回は私が新聞記事を勘違いしてしまいましたが、たとえ新聞の代わりにウェブログであったとしても、結果は同じだったと思います。「デジタル編集者は今日も夜更かし。」の実感こもった書評など、心を動かされます。
編集者の推薦文は二度と出来ない禁じ手だと思いますが、だからこそインパクトがありました。演劇チラシの推薦文もほとんどが評論家や外部の演劇人によるものですが、制作者自身が制作者生命を懸けて推薦するものがあってもいいんじゃないかと思います。演出家や劇作家が付き合いで書く推薦文とは全く異なる、気迫が漂う文章になるはずです。
『さくら』の感想、それは皆さん自身が読んで確かめてください。読了するのに体力が必要な作品であることは確かで、公式サイトにある「『世界の中心で、愛をさけぶ』『いま、会いにゆきます』の次はコレ!」のコピーは逆効果じゃないかと思います。中年男性にも読んでほしい。ベストセラーに厳しい家人には「小学館の掌で踊らされている」とバカにされましたが、その家人に読ませて感想を聞くのが楽しみです。
さくら/西 加奈子
とんでもない小説だった。
フワフワとした文章、分かりにくい構成に、なんじゃ、こりゃ?、読みにくい小説だなぁ、と思いながら最初の1~2章はかなりガマンをしながら読む。
“理想の家族”を構成する両親、兄、妹、“僕”、そして愛犬サクラが…
西加奈子『さくら』●
2005.3.20初版、2005.4.20第3刷。書き下ろし、なんだと思う。 …