京都のトリコ・Aプロデュース主宰の山口茜氏が、1月から「女三十路直前!ひとりでチケット1000枚行商計画」という特設ブログを公開しています。
トリコ・Aは、次回公演が京都試演会(終了)、東京(若手演出家コンクール2006)、名古屋(第7回愛知県芸術劇場演劇フェスティバル)の3都市ツアーです。この名古屋公演(5/11~5/13、栄・愛知県芸術劇場小ホール)に先駆けて、自ら現地で営業活動する様子を綴ったものです。今後どの程度名古屋通いをされるのかは不明ですが、1月はアルバイト先と交渉して名古屋支店勤務に変更してもらったそうです。
名古屋ではショップを回ってフリーペーパーを置かせてもらったり、チケット委託したり、ここに書かれた計画を実現するために動いているようです。地道にショップを訪ねるくだりは、キャラメルボックスが初の神戸公演でポスター貼りに回ったエピソードを彷彿させます。
チケットを売ることについて、これだけ真剣に取り組んでいる主宰者はめずらしいと思いますし、行動力が伴っていることについて、まず敬意を表します。その上で私が感じたことを書かせていただきたいと思います。
率直に思うのは、こうした面で戦力になるカンパニー付け(トリコ・Aは正確にはプロデュースユニットですが)の制作者が必要ではないかということです。いくら山口氏に営業的センスがあっても、孤軍奮闘するより内部に専門スタッフがいたほうがいいでしょう。アーティスティックな表現の場合、散らばる観客に自分たちの存在を伝える必要があります。その意味でエンタテインメント作品より高度な宣伝戦略が必要です。
小劇場界で制作者が目立つのは動員規模の大きいエンタテインメント系カンパニーですが、本当に制作者を必要としているのは、こうした若いアーティスティック系カンパニーではないでしょうか。作品世界に共感して本気で動いてくれる制作者を口説くこと――それが主宰者の仕事ではないかと思います。山口氏が目標としている「作品と観客が夫婦で、社会が客」という理念は崇高ですが、ならば制作者はその「仲人」だと思います。
アイデア求むとありますので、一つ提言しておきます。試演会を名古屋でもやったらどうでしょう。それも何回も。壱坪シアター(スペースイサン木屋町)で試演会をやったということは、名古屋でも理解あるカフェやギャラリーがあれば、費用をかけずに試演会が可能だと思います。移動は名神ハイウェイバスなら往復割引4,000円(「ネット割」でさらに2%割引)です。名古屋は京都から近いわけで、これを活かさない手はありません。
そもそも、試演会は上演地でやってこそ意味があると思います。そこでの批評を作品にフィードバックすることで本番にも動員が図れますし(変化を観たい観客が来る)、なによりプレビューとしての宣伝効果(クチコミが広がる)があります。愛知県芸術劇場演劇フェスティバルに参加する他府県のカンパニーが、名古屋で試演会をするのは前代未聞ですから、このこと自体ニュースになるでしょう。こうやって話題づくりをして試演会にマスコミを招待すれば、前記事が期待出来ると思います。試演会を何度もやれば、山口氏も引用している「『おかしくなっちゃった』と他人に思われる」状態になれるはずです。
地域の観客が旅公演に足を運ぶ基準の一つに、「その地域にどれだけ本気で取り組んでいるか」があると思います。名古屋はその傾向が強いと感じます。チケット販売ももちろん重要ですが、そこで試演会をやって作品を練り上げていく――これほど気持ちがストレートに伝わることはないでしょう。これこそが最大の宣伝だと思います。