6月は世間的にはワールドカップ月間だったわけですが、CSの日本映画専門チャンネルが特集「RESPECT 佐々木昭一郎」を放送したため、ファンにとっては忘れられない佐々木昭一郎月間となりました。
私は学生時代ずっと放送部でしたので、佐々木昭一郎作品は必須科目でした。1984~85年、京大と同志社の学生がつくるピッコロ・フューメがNHK京都で上映会を企画し、狂喜乱舞したものです。そのときの佐々木氏講演内容やチラシがWebにあります。会場での質疑応答も収録されていますが、その中の視聴率に関する部分で「1%でも、見てくれれば十分だと思います」という言葉にずいぶん刺激を受けました。
いま思うと佐々木氏だからこそ許される発言ですが、当時は私も青いので、プロ相手にこの言葉を引用したりして口論になったものです。社会人になってからは中尾幸世さんとちょっとした縁もあり、佐々木ワールドは忘れ難いものがあります。本当に先駆者と呼べる一人だと思います。寺山修司ラジオドラマなど、佐々木氏は演劇界とも深い関係があり、演劇人も知っておくべき存在です。
佐々木昭一郎作品に影響を受けた人は少なくないでしょう。日本映画専門チャンネルは、もっと大々的に宣伝すべきだったのでは。これを見るためだけに契約する人もいるはずです。大反響で12月にアンコール放送決定とのことですので、そのときはぜひ広告を打ってほしいものです。
DVD化されないのか気になるところですが、毎日新聞東京本社版6月8日付夕刊で佐々木氏が「DVD化の話も進み」と答えています。フィルムが残っているわけですから、DVD化は実現するはず。「タイム・トラベラー」「天下御免」みたいにビデオを消してしまったわけではないので、気長に待ちましょう。余談ですが、この「タイム・トラベラー」最終話奇跡の復活劇は何度読んでも感動します。
締めくくりは、朝日新聞東京本社版6月22日付夕刊に載った佐々木氏のこのコメントで。
ラジオドラマのCDの発売も延期になってしまいましたが、DVD化には反対です。
そのかわり、何年かに1回放送されるべきです。
ただ必ず誰もが見られるチャンネルで放送されていればよいのです。そう思います。
心境はわからなくもないですが、放送するということは録画されるということです。
ならば、完璧なDVDを出すことを止められないと思います。
録画をするという人はそれが何か知っているということです。私も今回の放送の録画を持っています。
それに、視聴は放送やDVDを買うことのできる人に限られます。
佐々木昭一郎との出会い方は、できるかぎりPPVや録画・DVDでないほうがいいと思うのです。
小中学生で、なんの予備知識もなく誰に勧められるでもなくある日あるとき突然あの作品に出会った衝撃と、その機会をなるべく保ちたいのです。
DVDを購入する人も「それが何か知っている」わけですから(予備知識なしでは買わないでしょう)、それはそれでいいのでは。DVDと放送は共存するものだと思いますし、DVD化は権利処理が進むことを意味しますので、逆に再放送もしやすくなると考えます。
ただし、当時の小中学生が佐々木昭一郎作品に出会えたのは、放送がゴールデンタイムだったことが大きいと思います。読売新聞東京本社版6月1日付夕刊で佐々木氏は、「視聴率は悪かったが、プロデューサーが数字よりも質的な深さを知っており、『こういう作品もないとだめだ』と上を説得してくれた」と語っています。現在のテレビ界でこの理想がどこまで通じるか、通じたとしても深夜ではないのか、そういう思いが巡ります。