この記事は2018年9月に掲載されたものです。
状況が変わったり、リンク先が変わっている可能性があります。



演劇の創客について考える/(25)文庫本の「フルカバー帯」のように、演劇チラシも全くテイストの異なる別バージョンをつくってみては

カテゴリー: 演劇の創客について考える | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

Pocket

●分割掲載です。初めての方は(予告)から順にご覧ください。

出版社のフェアやキャンペーンで、文庫本のカバーの上にもう1枚別のカバーを重ねて、平台に並べる手法が近年目立つと思います。業界用語で「フルカバー帯」と呼び、帯なので本来のカバーより少し短くつくるルールだそうです。

小説が映像化されたときの常套手段になりましたが、このフルカバー帯で度肝を抜かれたのが、昨年11月に講談社文庫が創刊46周年記念で乃木坂46とコラボレーションした「乃木坂文庫」でした。普段小説を読まない人までをも動かした好企画だと思います。スペシャルカバーと書かれていますが、下に本来のカバーがあるので、あくまでフルカバー帯です。

映画でも、異なるターゲット向けにテイストの全く異なる予告やチラシをつくることがめずらしくありません。見ていて、これが本当に同じ作品かと思えるものもあります。切り口を変えれば、どんな作品でも必ず複数の見どころがあると思います。

演劇のチラシも、同様に複数バージョンをつくり、異なる客層の公演で折り込んだり、場所ごとに置きチラシを変えればよいと思います。演劇の場合、同一作品で出演者を別々にフィーチャーしたチラシは昔から数多くありますが、切り口を全く変えたチラシはあまり見かけません。印刷費はとても安価になっていますので、通常の宣伝美術バージョンとは別に、遊び心あふれる別バージョンがあってもいいのではないでしょうか。特に、対外的に固定概念が出来ているような芸術団体は、試す価値があると思います。

旗揚げ17年目で初の東京公演を行なう演劇集団非常口(本拠地・鹿児島県伊佐市)が、全くテイストの異なる2種類の本チラシを作成しました。平成29年度北海道戯曲賞最終候補になった『鱗の宿』(東京11/15~11/18=こまばアゴラ劇場、鹿児島11/23~11/24=伊佐市文化会館)という作品ですが、通常バージョンと、観劇を「鱗の宿」という旅館への宿泊パンフレットに見立てたものです。裏面のデザインも変えています。カンパニー側は、それぞれ「おしゃれ」「旅館風」と名付けています。

(おしゃれ)
演劇集団非常口『鱗の宿』おしゃれ表面 演劇集団非常口『鱗の宿』おしゃれ裏面

(旅館風)
演劇集団非常口『鱗の宿』旅館風表面 演劇集団非常口『鱗の宿』旅館風裏面

「これまでの公演」のチラシ画像を見るとわかりますが、「旅館風」のようなベタなものは、これまで作成していません。明らかに東京公演を意識した工夫だと思います。人によって好みは分かれると思いますが、チラシ束の中では「旅館風」が異彩を放ち、目立っているようです。宣伝美術のクレジットはありませんが、制作は九州の演劇ニュースサイト「möla!」を運営する合同会社kitaya505(北九州市)が担当しています。

別テイストのチラシとして私が制作者に勧めたいのが、マンガで表現すること。片面あるいは両面全部を使って、作品を紹介する読み切りのコマ割りマンガが描けないかと思います。マンガならつい読んでしまうし、様々な表現が出来るでしょう。マンガなので2色印刷で作成すれば、4色だらけのチラシ束で逆に効果的だと思います。マンガを描ける人は周囲にきっといるはずで、小劇場ファンのマンガ家も少なくありません。

この手法は、かつて大人計画の部分公演などでよく見られました。『口から花のさく女』(1994年、東京・東演パラータ)、『イツワ夫人』(1995年、東京・駅前劇場)、『紅い給食』(1996年、東京・ザ・スズナリ)がイメージに近いです。

(※画像は公式サイトの拡大画像にリンクしています)
大人計画『口から花のさく女』 大人計画『イツワ夫人』 大人計画『紅い給食』

前の記事 演劇の創客について考える/(24)志ある民間劇場は平日レイトショーの実証実験をセゾン文化財団に助成申請したらどうだろう
次の記事 演劇の創客について考える/(26)谷賢一氏のTwitterが完全に「情熱大陸」になっている