王子小劇場(東京・王子)の元代表、玉山悟氏のつぶやきを読んで、「王子小劇場ってそんなに高かったか」と思った人はいないだろうか。
1年に商品が50個しかない劇場って商売で採算をよくしようと思ったら単価を値上げするしかない。けど都内には相場ってのがあるんであげられない。現在のO子小劇場は相場よりかなり強気な値段設定ですけどそれでも全然楽じゃないよね。
— たまやま さとる (@higenotamayama) 2016, 2月 2
王子小劇場の定価は、土日含む7日間で467,000円(税別)+電気代実費だ。付帯設備使用料は含まれている。これだけを見ると「かなり強気」とは思えないが、劇場費を比較する場合はキャパによる客席単価で計算する必要がある。
まず、7日間で何ステ公演出来るかを考えてみる。小劇場で目一杯公演しようと思うと、次のような日程で本番9ステが可能だろう。
月曜 仕込み
火曜 ゲネ~ソワレ
水曜 マチネ/ソワレ
木曜 ソワレ
金曜 ソワレ
土曜 マチネ/ソワレ
日曜 マチネ/ソワレ~バラシ
仕込み日を2日間取り、水曜ソワレを初日にして日曜もマチネ終わりにすると、本番6ステになる。これが最少だろう。
月曜 仕込み
火曜 仕込み
水曜 ゲネ~ソワレ
木曜 ソワレ
金曜 ソワレ
土曜 マチネ/ソワレ
日曜 マチネ~バラシ
小劇場のキャパは舞台の取り方で大きく変わるので一概には言えないが、ネット上の各種データを見ると、王子小劇場は100席程度のようだ。
(7日間9ステの場合)
100席×9ステ=900席
467,000円÷900席=約519円
(7日間6ステの場合)
100席×6ステ=600席
467,000円÷600席=約778円
王子小劇場は「ライバルは駅前とアゴラ」を掲げているので、次に駅前劇場(東京・下北沢)の客席単価を計算してみる。こまばアゴラ劇場(東京・駒場)は劇場助成による値下げ、劇場支援会員による制作支援金が支払われるため、劇場への支払いは比較にならないほど安い。仮に1ステ30,000円・80席と仮定すると、次のようになる。
30,000円÷80席=375円
駅前劇場の定価は曜日・ステージ数で計算する。電気代実費、付帯設備使用料込みなのは王子小劇場と同じだ。本番9ステで計算してみる
月曜 仕込み ⇒平日仕込み60,000円 火曜 ゲネ~ソワレ ⇒平日1ステ 80,000円 水曜 マチネ/ソワレ ⇒平日2ステ120,000円 木曜 ソワレ ⇒平日1ステ 80,000円 金曜 ソワレ ⇒平日1ステ 80,000円 土曜 マチネ/ソワレ ⇒休日2ステ141,000円 日曜 マチネ/ソワレ~バラシ ⇒休日2ステ141,000円 ------------------------------------------------- 合計:702,000円(税別)
本番6ステで計算してみる。
月曜 仕込み ⇒平日仕込み60,000円 火曜 仕込み ⇒平日仕込み60,000円 水曜 ゲネ~ソワレ ⇒平日1ステ 80,000円 木曜 ソワレ ⇒平日1ステ 80,000円 金曜 ソワレ ⇒平日1ステ 80,000円 土曜 マチネ/ソワレ ⇒休日2ステ141,000円 日曜 マチネ~バラシ ⇒休日1ステ 94,000円 ------------------------------------------------- 合計:595,000円(税別)
駅前劇場のキャパは180席と書いているデータが多いので、これを使う。
(7日間9ステの場合)
180席×9ステ=1,620席
702,000円÷1,620席=約433円
(7日間6ステの場合)
180席×6ステ=1,080席
595,000円÷1,080席=約551円
つまり、王子小劇場が約519円~778円なのに対し、駅前劇場が約433円~551円ということになる。下北沢駅前という立地条件に恵まれた駅前劇場より高いことになるわけで、「相場よりかなり強気な値段設定」というのはうなずける。
ただし、劇場費が高い=悪いということでは決してない。民間企業がコストを価格に転嫁するのは当然のことで、そうでないと経営が成り立たない。日本の民間劇場が「意思のある貸館」として担ってきた役割を評価するのなら、本来は貸館事業に対する公的な劇場助成制度があるべきだろう。自主制作・フランチャイズ・演劇祭等しか対象にしない文化庁の劇場・音楽堂等活性化事業は、日本の演劇文化の実態を反映したものではないと思う。
王子小劇場が高いのではない。王子小劇場への助成がなさすぎるのだ。
なお、東京でいちばん客席単価が安い小劇場だが、以前は制作者同士の会話でザ・スズナリ(東京・下北沢)がよく話題になった。2ステ料金が低く抑えられ、キャパもかなり取れるため、目一杯公演すると驚くほど安価になる。計算すると、アゴラ劇場より安価になる場合もある。その代わり、延長料金が割高なので注意が必要だ。