最初に断わっておきますが、私は維新派のファンではありません。維新派は劇団日本維新派時代から観ていますが、「ヂャンヂャン☆オペラ」への路線変更が〈計算づく〉に感じられて、どうも感情移入出来ないのです。最近の維新派しか知らない観客を、タイムマシンで劇団日本維新派の客席へ送ってやりたいと思うほどです。若手カンパニーでも、戦略が露骨すぎて表現が〈計算づく〉に見えると、私はダメなんだな。最初は好きだったのに、回を重ねるごとに興味が薄れたところがいくつかあります。これはもう私の性格なのでどうしようもありません。たまたま私がそうだというだけです。
そんな私でも、維新派の作品自体の完成度は認めざるを得ませんし、現代演劇を語る上で存在を無視するわけにはいかないと思います。昨年の琵琶湖畔での『呼吸機械』は、各紙大阪本社版の回顧記事が「傑出した舞台成果」(朝日)、「今年第一の収穫」(日経)などと高く評価し、東京本社版でも朝日が「幸福な舞台」と最大級の賛辞を送り、関西在住の太田耕人氏(朝日)、九鬼葉子氏(日経)がベスト3に挙げています。8日に発表された第8回朝日舞台芸術賞では、太田氏と西堂行人氏の支持により松本雄吉氏がアーティスト賞を受賞しました。
これに対し、14日・15日に発表された第16回読売演劇大賞ノミネートでは、維新派の名前を見ることはありませんでした。読売演劇大賞はストレートプレイ中心の傾向がありますし、賞によって評価は異なって当然ですが、それを差し引いても首都圏で上演されていないことが影響しているのではないかと思えてなりません。維新派については、1991年に汐留で『少年街』を上演するまで、東京の演劇評論家・演劇記者の多くが関西まで足を運ばなかった経緯があります。あれから17年経ちますが、世界に通じると言われる維新派でさえ、この不平等は続いているのでしょうか。
維新派制作者の清水翼氏は個人ブログ「目の嗅覚」で、首都圏に偏った選考を厳しく批判しています。当事者だからではなく、これは地域在住の制作者共通の思いでしょう。賞や助成金のために、アゴアシマクラ付きで招待しようかという話も昔からあります。清水氏は選考委員を責めていますが、私は他地域の選考委員を入れない事務局のほうに問題があると思います。東京での上演数は膨大で、首都圏在住の選考委員が他地域に目配りするのは物理的に無理でしょう。地域在住の演劇評論家をもっと加えたり、東京本社以外に勤務している演劇記者を選考委員にしてもいいのではないでしょうか。演劇記者は転勤も多いので、客観的な基準で地域にかかわらず作品を推薦出来るはずです。
全国紙の演劇記事は読売が抜きん出ていると言われ、毎年の回顧記事でも小劇場系を含めた視野の広さは他紙を凌駕していると感じてきましたが、昨年に関しては維新派を忘れなかった朝日に軍配が上がったと思います。演劇ジャーナリズムとして、記録しなければならない公演というものがあると思います。
朝日舞台芸術賞が半期ごとに実施している全国の演劇関係者へのアンケートも、今回は意義があったのだろうと思います。講評で朝日新聞社編集担当の粕谷卓志氏は、「首都圏だけでなく、全国の活動から幅広く収穫が得られ、舞台芸術の豊かさを改めて実感いたしました」と結んでいます。
(参考)
維新派とゴキブリコンビナート