雑誌『映画芸術』に連載された、地域のミニシアターの実態が単行本になった。映画館の開業から運営の内部事情を当事者が綴ったもので、ミニシアターが直面する経済的問題、デジタル化の壁、いかに独自性を発揮するかがリアルに描かれている。
シネコンの普及により、地域でもロードショーへの飢餓感はずいぶん解消されたが、それが逆にミニシアターのヒット作を奪う事態となり、これまで以上に作品選定や企画づくりが問われている。ヨーロッパ企画のイベントでも知られる京都みなみ会館(京都・東寺)、演劇公演に使われることもある第七藝術劇場(大阪・十三)ももちろん収録されている。
映画館は映画そのものをつくるところではないが、膨大な作品の中から独自のラインナップを組み、DVDでは味わえない環境を提供することに意義がある。これは演劇界で言うと、東京の民間劇場と似たミッションだと私は思う。東京では膨大な上演団体が劇場を求めており、人気の民間劇場は競争率が高い。このため、映画館と同様に独自のラインナップを組める環境にある。先着順ではない独自の作品選定を行なっているわけで、単なる貸館以上の機能を果たしている。劇場法(仮称)の議論が進む中、貸館は創造の対極にあると思われがちだが、貸館がダメなのではなく、作品選定を伴う貸館は民間劇場の重要な機能であり、それが東京の小劇場シーンを支えてきたことも強調しておきたい。
映画館と言えば年中無休が当たり前と思っていたら、シアタープレイタウン(秋田・有楽町)は毎週金土日だけの上映だ(季節によって連続上映あり)。暖房に使う重油の高騰で、09年冬は2か月半休館したという。週の前半が空いているということは、交渉次第で公演会場に使えるかも知れない。
多くの演劇人にとって、究極の夢は自分の劇場を持つことだと思うが、それを果たした映画館主やスタッフたちのリポートである。読んでいて、胸が熱くならないわけがない。すべての映画館にそれぞれの物語がある。多額の借金を抱え、幾度もの閉館の危機を乗り越え、今日がある。そして、それは演劇の民間劇場も同じだと言いたい。
最後に帯の惹句を紹介しておこう。
全国の“わが町”に
銀幕(スクリーン)を掲げる
16の映画館(ミニシアター)。
その幸福と苦悩を凝縮。
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