著名なアートディレクターである佐藤可士和氏をどうプロデュースしてきたかを、夫人でもある佐藤悦子マネージャーが語り下ろしたものです。こうした派手な広告の世界は小劇場と違うと感じる方も多いと思いますが、この本に限ってはアーティストとどう付き合うべきかという点で、非常に参考になる記述が散見されます。
世の中には、「アーティストは人生のエッジを歩んで表現を生み出しているのだから、作品が素晴らしければ私生活は問わない。社会との媒介はマネージャーが務めればよい」という考え方もありますが、この本で悦子氏は、
と語り、時間の厳守、挨拶やお礼の重要性、身だしなみのコントロールなど、どのような言葉で可士和氏に納得させたかを具体的に紹介しています。ジーンズで出席しようとしたパーティーをスーツに変えさせたこともあれば、場の趣旨によっては逆に派手な格好をさせることもあるそうです。
悦子氏は一般紙と経済紙の2紙を毎朝切り抜き、可士和氏は移動中にそれに目を通すそうです。以前は経済紙の専門記事には特に気を留めていなかったそうですが、仕事の領域が広がるにつれ、当然の素養として求められるようになりました。可士和氏は客観的に「知らないことを『知らない』と正直に言える強さを持ちたい」というポリシーを持っているそうですが、悦子氏はこうまとめています。
こうした日常の考え方に加え、常時30以上のプロジェクトを同時進行させながら分刻みで行動する可士和氏のスケジュール調整、頭の切り替え方も紹介されています。実際の仕事の進め方も多数掲載されていますが、中でもユニクロNY旗艦店オープンでスケジュールとクオリティの板挟みになったときのエピソードは、制作者にも身近に感じられるのではないでしょうか。
誠文堂新光社
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