この記事は2010年3月に掲載されたものです。
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映画業界の創客努力

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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創客の先達として、映画業界の動向は常に注目する必要がある。「映画館に行こう!」実行委員会による全国の劇場上映スケジュール配信と、映画演劇文化協会による「午前十時の映画祭」について触れておきたい。

「映画館に行こう!」実行委員会といえば、2004年からの「夫婦50割引」、05年からの「高校生友情プライス」キャンペーンで知られる。「高校生友情プライス」は平均利用率1%で09年に終了したが、「夫婦50割引」はキャンペーン前の映画人口比3%が平均7%を超えるようになり、映画ファンが延べ700万人増えた計算になるという。このため07年のキャンペーン終了後も正規の割引制度として全国の映画館で定着した。素晴らしい成果だと思う。

同実行委員会が次の創客事業として手掛けたのが、09年12月にスタートした「上映スケジュールデータ配信サービス」だ。これは全国611館3,260スクリーンの上映スケジュールをデータベース化したもので、興行会社や配給会社の枠を超えて映画館自ら情報提供する初の試みだ。独立系の映画館も情報登録すれば表示されるので、メディアによる掲載格差もない。演劇も劇場ごとやメディアによる公演情報はあるが、こうした劇場同士が連携した情報提供という発想がもっとあってもいいのではないだろうか。

演劇の場合、どうしても貸館が多くなるので、責任を持った情報発信が出来ない事情もあるのだろうが、個々の公式サイトではスケジュールを公表しているわけで、それを統合する試みがもっとあっていいと思う。貸館も含めた公演情報を劇場側が連携して情報発信している例としては、札幌のコンカリーニョ、BLOCH、シアターZOOの有志が協働した「Sapporo Theater Schedule」がある。シンプルな印刷物だが、こういうことが大切ではないかと思う。

映画演劇文化協会という名前は初めて耳にする方もいると思う。これは映画文化協会が09年10月に一般社団法人に移行する際に改名したもので、東宝系の菊田一夫演劇賞は改名前の08年から主催している。「午前十時の映画祭」はその新規公益事業として2月6日から1年間実施されている。

これは「映画の黄金時代」と呼ばれた1950~70年代中心に洋画50本を厳選し、全国25館で毎朝10時から全作品ニュープリント上映するもの(フィルムを各館1週ずつ回していく)。映画はDVDでいつでも観られるが、映画館の大スクリーンで楽しむのはやはり格別なものだ。またどんな名作であっても、きっかけがなければ目にしない若者もいるだろう(今回洋画の名作中心にしたのは、若者の洋画離れが顕著なためらしい)。DVDに頼らず、こうした映画の素晴らしさを再確認するキャンペーンを企画したのは英断だと思う。『フォロー・ミー』のようなビデオ・DVD化されていない作品も含まれ、興行面でも期待出来るのではないだろうか。

2週間が終わった時点での興行概況報告会によると出足は順調で、当初目標の年間50万人を超える70万人を見込んでいる。TOHOシネマズ六本木ヒルズは上映回数を連日2回に増やした。平日午前中の映画館活用という面でも注目したい。

演劇でも「午前十時の映画祭」に学ぶべき点は多い。名作戯曲の再演、平日昼間の劇場活用など、劇場に足を運んでもらいたい側として類似の課題だと思う。

(参考)
「世界一の映画館」に学べ
劇場に行こう!
シネコンのイス