この記事は2010年2月に掲載されたものです。
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公演で黒字を出すということ

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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有川浩氏『シアター!』を読んで、その後考えたことを書いておきたい。

公演会計で支出が収入を上回っているという実態は、経済的にはやはり「業」とは呼べないもので、一般的にはアマチュアの趣味ということになってしまう。もちろん、チケット代に見合った作品を提供している自負は誰もが持っていると思うので、対価としてのクオリティという意味ではプロ意識があると思うが、経済的には「業」ではない。創業時は赤字でも黒字転換を目指すのが「業」であって、赤字があたりまえと思ってしまったり、公演以外の事業で補填するのが当然と思うのは違うのではないかと感じる。

小劇場演劇の世界で、公演収入だけで食べていくのは非常に困難だと思うが、少しでもいいから黒字にして、それと他の収入を合わせてやっていけるような状況をつくり出すのが、「業」としての公演ではないかと思う。他メディアで活躍したり、ワークショップの指導をしたりなど、演劇人の活動の領域もずいぶん広がってきているが、やはり「本業」である舞台公演で黒字を出すことを目指すのが王道ではないか。

観客動員を図ることが、わかりやすいエンタテインメントの特権だとは思わない。高尚なハイハートでも赤字にならない程度の動員を得ることは可能だと思うし、それを目標にしなければならない。動員が限られているからという理由で、最初から助成金を見込む風潮はいかがなものかと思う。そうした集団こそ、潜在的な観客を開拓し、公演で黒字を出す「業」の姿になってもらいたいものである。

『シアター!』はエンタテインメント系のカンパニーを描いているため、そうではない表現を目指している集団とは縁のない話に思えるかも知れない。だが、そこで描かれている「公演で黒字を出すということ」は、演劇を「業」とするなら当然の話であって、演劇人なら誰もが真剣に考えるべきことだろう。

実際のところ、公演で劇団員にギャランティを出すのは本当に遠い道程だと思う。けれど、それを完全にあきらめてしまって、公演が他メディアに顔見世するためのショーケースになってしまったり、芸術面だけの完成度で満足してしまったりするのは残念に思う。誰だって「演劇で収入を得たい」という願いはあるわけで、その純粋な気持ちを観客獲得に向けてもらいたい。動員を目指すことは「業」としてあたりまえのことなのだから。

そうした原点を思い出させてくれた小説だったと思う。