この記事は2021年1月に掲載されたものです。
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『シアターアーツ』「2020AICT会員アンケート」、上演されないことに公平・不公平はないと思う

カテゴリー: フリンジのリフジン | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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4月発行予定のAICT(国際演劇評論家協会)日本センター『シアターアーツ』(晩成書房)65号に掲載される「2020AICT会員アンケート」に参加させていただいた。

コロナ禍で公演数が減ったため、例年のベスト舞台、ベストアーティスト、実験的・先駆的作品/アーティスト、優秀新人アーティストという選出ではなく、全体を通して作品を選ぶという簡素化された形式になった。「公平な選出ができない」という理由だが、私自身はそうは思わないので、この点については中止になった鶴屋南北戯曲賞とも絡めて、コメントで考えを述べた。

■2020年の舞台で印象に残った作品(5本、順位あり)
(1) T-works『愛する母、マリの肖像』(作=古川健、演出=高橋正徳、会場=赤坂RED/THEATER)
(2) やみ・あがりシアター『謁見』(作・演出=笠浦静花、会場=スタジオ空洞)
(3) 東京芸術劇場+りゅーとぴあ『エブリ・ブリリアント・シング』(作=ダンカン・マクミラン+ジョニー・ドナヒュー、翻訳・演出=谷賢一、会場=東京芸術劇場シアターイースト)
(4) あやめ十八番『江戸系 宵蛍』(作・演出=堀越涼、会場=吉祥寺シアター)
(5) 燐光群『拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿』(作・演出=坂手洋二、会場=座・高円寺1)

■コメント
 コロナ禍で上演本数は限られたが、観るべき作品は多かった。劇場再開後だけでなく、緊急事態宣言前の瀬戸際の公演でも、演劇を届けられた喜びに溢れていた。上演が限られたことを理由に選考中止となった演劇賞もあるが、作品の数と質は比例しない。公演された中から選ばれることが演劇という表現の宿命であり、そこに公平・不公平という概念はないはずだ。上演されなかった作品は新たな機会を目指し、そこで評価されればいい。
 『愛する母、マリの肖像』は白眉の出来。放射能の影響を意識しながら探究を止めなかったキュリー夫人の姿と公演状況が重なった。『謁見』は劇場再開後の制約を逆手に取った大傑作。『エブリ・ブリリアント・シング』は一人芝居の限界を超えた観客参加型の発明。『江戸系 宵蛍』は東京五輪と三里塚闘争を絡め、語り継ぐべき記憶に挑んだ意欲作。『拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿』は大胆な発想と構成で森友問題を描いた新たな代表作。

■年間の観劇本数
約40本