制作者が買わずして誰が買うのかと思える新刊が出ました。
英治出版
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著者のジョアン・バーンスタイン氏は、現代マーケティングの第一人者として知られるフィリップ・コトラー氏と共著で『お立見席しかありません――舞台芸術のマーケティング戦略』を1997年に出しており(未邦訳)、米国でベストセラーになりました。今回はインターネットの活用など新しい動向も織り込みながら、米英を中心とした具体例を紹介しています。
高齢者を劇場へ導くためにタクシー料金を割り引くイギリス文化振興会の「お出かけプログラム」、平日マチネを14時開演から11時に変更して母親層を集めたニューヨークのチェリー・レーン・シアター、シカゴ演劇連盟の192カンパニーがチケットを商品券化してプレゼント可能にした「プレイマネー」、公演3か月前に半額販売を1日だけ行なって成功したミルウォーキー・レパートリー・シアターなど満載の事例、売上分析で「会員制度では割引より、高くてもいいからよい席を望む」ことの実証や、DMメールの秘訣も詳細に書かれています。
本書は従来の会員制度に疑問を呈し、『予約会員獲得のすすめ―奇跡をよぶ財政安定化マニュアル』(芸団協、2001年)などで知られるダニー・ニューマンの手法に変化が必要だと説いています。そして気まぐれなシングルチケット(一般チケット)の購入者こそが重要で、手数料ありでいいから指定日時の交換が直前まで出来ること、観客自身の記念日と結び付けることなど、具体的な戦略を提案しています。
同時に出版された『社会が変わるマーケティング――民間企業の知恵を公共サービスに活かす』は、コトラー氏自身による社会基盤に対するマーケティングの提案です。マーケティングという言葉は行政ではあまり使わないものですが、顧客に対する戦略と実践のプロセス全体を指すもので、公共サービスでも必要な考え方です。日本の公共ホールでも「観客創造」と言い換えたりしていますが、私は堂々とマーケティングと言えばいいと思います。
英治出版
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本書はシートベルト着用、ペット登録、エイズ対策、臓器提供、飲酒運転防止、節水など、人々の意識や習慣を変えるキャンペーンを分析したもので、人々が劇場に行く世の中に変えたいと思っている制作者にとって、同等以上の難題ばかりです。ぜひ刺激を受けていただきたいと思います。