この記事は2006年3月に掲載されたものです。
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興行の歴史が変わるかも知れない

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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[トピック]3月4日付の「セブンイレブンで支払・発券可能なチケット直販システム『Gettii』導入相次ぐ、ぴあは提携解消へ」は、興行の歴史を塗り替える可能性をはらんだ、ものすごいニュースだと思います。

プレイガイド同士の提携競争のように報じている新聞が多いようですが、重要なのはセブンイレブンが「インターネットチケット発券サービス」という代金収納代行サービス(野村総研が運営)でチケットの支払・発券を扱うことで、これはプレイガイドが不要になりかねないことを意味します。興行元がインターネットを使って直接販売し、決済と発券はコンビニを使うことで、流通業者の中抜きが可能になるわけです。Gettiiがそこまでのインフラになり得るかという疑問はありますが、ビジネスモデルが確立すれば他業者の参入や買収もあり得ます。ネット上の新興サービスが見る間に成長し、既存大手企業を脅かす存在になった例はいくつもあります。

興行元が直接販売にシフトするとどうなるか。プレイガイドにとっては存亡の危機ですから、なんとしても仕入れを確保しなければならない。そうなると、現在の委託販売から買取販売へ移行することが予想されます。いまは売れ残った座席は興行元に返券する委託販売ですが、プレイガイドは売れると踏んだ枚数を買い取ることを条件に、なんとか人気公演の仕入れを推進するのではないか。買い取ってくれるなら、興行元もリスク分散のためにチケットを卸すと思います。

買取販売になると、プレイガイドはそれを売るために必死になるでしょう。これまでと違い、残席が出たらプレイガイド自身が負担することになるわけですから。もちろん、売れない公演は買取対象になりません。そうなると、小規模な公演の委託販売は逆に負担となり、扱いさえなくなるかも知れません。小劇場系カンパニーはプレイガイドを使わず、自分たちでネット販売しろということになるでしょう。メジャーでないと店にさえ並べてくれない状態です。売れないのに委託しているカンパニーは、間違いなく淘汰されるでしょう。

次に予想されるのは、販売チャネル間でチケット料金に差がつくことです。いまは委託販売ですからプレイガイドに関係なく同一価格ですが、買取販売なら店によって差が出るのは当然です。チケットは再販商品ではないので、買取になった瞬間に価格差が発生するはず。プレイガイドも必死ですから、特典を付けたり、マイレージ制度を導入して観客の囲い込みに入るでしょう。この辺は、観客にとって逆に歓迎すべき状況になるかも知れません。

プレイガイドから購入するより、興行元から直接購入したほうが安いと私たちは想像しがちですが、世の中の先例を見るとそうとも言い切れません。旅行がいい例ですが、宿泊施設や交通機関のサイトで直接予約する料金より、旅行会社のほうが安くて特典付きということがよくあります。旅行会社の購買力を発揮した仕入れが行なわれているはずで、興行元はこうした交渉の荒波にもまれていくと思います。これがさらに進むと、プレイガイドが興行の企画に直接関与することになります。現在のルーティンな配券とは全く異なる営業になるでしょう。

Gettiiは非常に高機能で、複数の会員制度がつくれます。例えば、制作者が集まって票券管理を一手に扱えば、いまでもプレイガイドに匹敵するチャネルが出来てしまうことになります。既存プレイガイドと縁が薄い若手カンパニーにとってはビジネスチャンスかも知れないし、すでに既存プレイガイドで売れている中堅以上のカンパニーにとっては、今後の関係性に判断が求められることになるでしょう。

コンビニ店頭で支払いが出来るのは、公共料金や大手通販業者だけだと私たちは思い込んできました。プレイガイド側もそう考えていたはずです。それが一般のネット販売に広がって、チケット印刷まで店頭で出来るという事態は、想像を超えた展開だと思います。ぴあに代わってセブンイレブンとの提携を決めたイープラスにとっても、これはビジネスの根幹に関わる問題で、今後の戦略を巡って激論が闘わされているのではないでしょうか。

アクセスが集中するプレイガイドのサイトは巨大なインフラですので、既存プレイガイドに相当なアドバンテージがあるとは思いますが、今後の大きな変革の始まりのような気がしてなりません。1983年のチケットぴあ誕生以来のニュースだと思います。