次代の文化を創造する新進芸術家育成事業の公募情報が公開されました。
赤字補填の制約から脱却し、応募できる事業の幅が広がったことは高く評価されるべきだと思います。
募集期間が短くなっていますが、制度改善に伴う今年度に限定されたものとして受け止め、全体としてはこの改正を評価したいと思います。期間が短いことはなにより事業担当者に忸怩たる思いがあるはずです。
とはいえ公開された企画提案要領に、やや違和感を感じる部分があります。
それは(1)趣旨に記載された
「本事業は、新進芸術家等が基礎や技術を磨いていくために必要な舞台などの実践の機会や、広
い視野、広い見聞、広い分野に関する知識を身につける場を提供するとともにその基盤整備を図
り、次代を担い、世界に通用する創造性豊かな新進芸術家の育成等に資するものです。」
のうちの下線部分です。
芸術文化における国の責務として、世界に通用する人材の育成を行うことは異論のないところだと思います。しかし新進芸術家育成事業が、世界に通用する人材の育成のみを目的としてしまうことは以下の2点で、まずいだろうと考えます。
まず1点目ですが、国内の芸術文化環境の地域間格差の是正に取り組むという国の責務が放置されてしまうことです。この格差は国の施策によって形成されたものであり、この是正にもっとも大きな責任を持つのは国であることは言うまでもありません。その責任を果たすには地域の表現者の育成、地域の創作環境の改善が必要です。
これは究極的には世界に通用する人材の育成につながるといえますが、直接的につながるとは言い難いものがあります。
2点目は演劇の特性に関わる部分です。
演劇は他の芸術よりも言語への依存度が高い芸術分野です。そのため表現の方向性が海外での活躍にフィットしないこともありえます。
私としては、この「世界に通用する」の文言は、そのことのみを目的とするわけではなく、代表的な目的の一つとして示されていると解釈したいと思います。
本事業が、地域の人材育成につながる有意義な企画を生み出すことを期待しています。