この記事は2007年2月に掲載されたものです。
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黒色綺譚カナリア派『繭文~放蕩ノ吊ラレ作家~』

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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東京の若手で人気急上昇中の黒色綺譚カナリア派『繭文~放蕩ノ吊ラレ作家~』を観ました。私はこれが初見になります。

唐組出身の赤澤ムック氏が主宰する耽美派集団ですが、だからといってアングラ直系の作品を若手が生み出すのはもはや不可能なはずで、「アングラ的意匠を纏ったサブカル演劇」(「小劇場系」)ということになるのだろうと思います。ただ、今回は新境地と呼べる作風のようです。

耽美派の名に恥じない凝った舞台美術は健在ですが、アングラに特徴的な演出は影を潜めていました。出来事ではなく、登場人物の内面の変化を淡々と見せる作品ですので、その分アングラ的派手さが邪魔になったのかも知れません。この戯曲にふさわしい選択で、今回を観る限り私は非常に好感を抱きました。

なにより戯曲の完成度が高いです。家族の中で自分の居場所を探すテーマ性が叙情的に描かれており、伏線の張り方も見事。進行につれて少しずつ観客に種明かしされていく様が絶妙です。前半の停滞感が解消されれば、なおよいと思います。俳優は若さが目立ち、導入部はどうしたものかと不安に襲われましたが、それを補って余りある戯曲の出来と、高さの異なる四つの舞台を駆使したミザンスが最後まで持たせます。

テーマに連動した仕掛けもいくつかあり、ここまで統一した世界観はなかなか出せないと思います。ザムザ阿佐谷との提携公演もこれが4本目で、次はザ・ポケット、青山円形へ進出とのこと。ザムザを知り尽くした恩返しのような舞台に思えました。

この実力なら青山円形も当然だと感じます。観客として、一つのカンパニーが成長していく過程の重要なターニングポイントに立ち会えた満足感があります。物語の力を信じる方にオススメ。公演は13日まで、あと3ステージあります。


黒色綺譚カナリア派『繭文~放蕩ノ吊ラレ作家~』」への2件のフィードバック

  1. 熊谷対世志

    同感です!
    私は初日に行きました。
    fringeの「『豚とオートバイ』無断上演問題」で私の事を知ってmixiの私の所を覗きに来た若い演劇関係者らしい人は随分いたのですが、足跡を追って其の文章を読んで、其の後も私が読者になったのは赤澤ムック一人だけでした。「繭文」の初日が近付いた頃挨拶して、観に行ったと云う訳です。
    何よりも、彼女の「書きたいモノがある」感が好きです。私にも色々不満はありましたが、何よりも何処かから持って来たのではない言葉が、確かに舞台の上にありました。
    此んな出会いを齎して呉れた、荻野さんに感謝します。

  2. 田中健友

    はじめて投稿します。

    先日、かなり失礼なメールした田中です。

    私も観にいきました。そして同様にあの瞬間に立ち会えたことをすごく嬉しく思いました。この作品の完成度は高く、演者の若さはもったいなかったものの、それと気にすらさせず、感じさせる作家の力はすばらしかったです。

    そして、見終わった後、黒色綺譚カナリア派が最近急上昇といわれていますが、作品を観てしまうと、そういう声があっても、もっと評価されてもよいのでは?と思ってしまいます。

    雑文失礼しました。
    劇評を拝見していて、おもわず返してしまいました。

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