この記事は2008年7月に掲載されたものです。
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創造環境の地域格差

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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高崎さんが力説されている舞台芸術創造環境の地域格差是正について、私なりの例え話をしてみたいと思います。

創造環境にもステップがあり、演劇人だけではどうにもならないことと、演劇人がなんとかすべきことの両方があると思います。これを「環境」という一言で括ってしまうために、そうではないと考える人とのあいだで議論が噛み合わないのではないでしょうか。私が言いたいのは「環境」にもいろいろあり、ステップごとに考えていくべきではないかということです。

まず、演劇のインフラとも言える劇場や稽古場施設、そして演劇人が教育を受ける場。これらを人口比で考えると、多目的ホールが一つあれば充分という地域が出てきたり、東京へ行けばいいという話になってしまいます。そうではなく、空港や高速道路や新幹線の交通インフラを地域が欲しているように、演劇のための施設も必要なのです。東京の人から見たら、ハコモノ施設はムダに思えるかも知れません。けれど、ムダかどうかはその後の運用の問題であって、インフラとして考えた場合は必要だと思います。

私自身、家庭の事情で都会から田舎へ引っ越した経験を持ち、地元に新空港や高速道路が出来るのを待ち望んで暮らしていました。インフラ整備を望む地域の思いは痛いほどわかるし、そこに住まない東京の人間が自然だけを見て、「このままなにも変わらないでほしい」的な発言をするのは疑問に感じます。だから、高崎さんがライフワークとして格差是正に取り組む気持ちは理解出来ます。インフラは国民全員の権利だと思います。もし田舎にこれ以上物理的インフラが要らないと思うなら、その格差をITで埋めるために、都市部在住者の税金で田舎のインターネット回線を無償にするぐらいのことをしないといけないと思います。

次に、インフラの運用について考えます。念願の空港が出来ても、航空会社がどれだけ乗り入れるかはわかりません。ここは需要と供給の問題になると思います。需要が少なければ1日2便しか飛ばないでしょうし、搭乗率が上がれば航空会社のほうから増便するでしょう。演劇なら、劇場の稼働率がこれに相当すると思います。演劇専用劇場が出来たとしても、公演が週末にしかなければ、それ以上劇場は不要ということになるでしょう。これは地元自身の責任であり、「環境」に責任転嫁すべきことではないと思います。

いちばん困るのが、空港が欲しいと言っておきながら、空港が出来ても安い夜行バスを使うような人。多少高くても、自分たちの空港を維持するために積極的に利用すべきではないかと思います。確かに劇場費も安くありません。けれど、だからといって公演期間を延ばさないままでは、インフラがムダな投資になってしまいます。勇気を持って公演期間を延ばし、観客を開拓していかないと、「環境」はなにも変わらないのではないかと思います。

助成金制度も同じではないでしょうか。選考内容に不公平が生じないよう、地域に目配り出来る選考委員を加えることや、各地で説明会を開くことは重要だと思います。けれど、そうしたところで応募自体が少なければどうしようもありません。芸術文化振興基金現代舞台芸術創造普及活動を批評するには、地域別の応募数データが必要ではないでしょうか。採択数だけで比較するのは、インフラと運用を混同することにならないでしょうか。

福岡に国立福岡演劇センターが出来たとします。けれど、福岡にあるからといって、九州のカンパニーを優先的に使わせる必要はないと私は思います。全国から企画を募り、選考を勝ち抜いた者が使う。それが芸術ではないでしょうか。九州大学だって、九州出身者を優先的に合格させているわけではなく、入試の成績順でしょう。インフラは整えるけれど、その運用は実力勝負にする。結果的にそのインフラに刺激されて、地元利用が増えればいい。それが私の考える本来の格差解消です。


創造環境の地域格差」への2件のフィードバック

  1. 高崎大志

    荻野さんのご意見、全面的に賛成です。

    >芸術文化振興基金現代舞台芸術創造普及活動を批評するには、地域別の応募数データが必要ではないでしょうか。採択数だけで比較するのは、インフラと運用を混同することにならないでしょうか。

    これも、厳密に言えばそのとおりです。
    地域別の応募数がないことには、精密な議論になりえず、おおざっぱな推測の部分がのこります。

    申請数が少ないとすれば、以下の2つの要因が考えられます。
    1 地域制作者の情報収集能力、申請への意欲等が低い
    2 助成金の周知が首都圏関西圏にかたよっていて、全国的に周知する努力が足りない

    1は個々の努力、2は環境と考えます。
    どちらも良い方向に変わっていくことを望んでいます。それぞれの要素の大きさは、主観になりますが、私の中では(6-4)です。

  2. 高崎大志

    >そこに住まない東京の人間が自然だけを見て、「このままなにも変わらないでほしい」

    こういうご発言をされる、有識者がけっこう多いんですよね・・・

    これは、地域にあって東京にないもの。にだけ気づき、東京にあって地域にないもの。に気づいてない。ことに起因するだろうと思っています。
    そこを意識することは確かに困難なことだけど、少なくとも有識者とされる人は、そこにもうちょっと意識的になってほしいなぁと思います。

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